聖フランチェスコのいるエジプトへの逃避途上の休息

『聖フランチェスコのいるエジプトへの逃避途上の休息』は、ルネサンス期のイタリア画家コレッジョが1520年頃に制作した油彩画です。この作品は、聖家族がヘロデ王の幼児虐殺から逃れるためエジプトへ向かう途中で休息する場面を描いており、外典「偽マタイの福音書」に記された奇跡のエピソードに基づいています。依頼主は裕福な法律家であり文化人であったフランチェスコ・ムナーリで、画家の故郷であるコッレッジョのサン・フランチェスコ教会の無原罪の御魂宿りの家族礼拝堂のために制作されました。その後、メディチ家のコレクションに加わり、現在はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。

主題

聖家族のエジプト逃避は、『新約聖書』「マタイによる福音書」に記述されています。ヘロデ王が「ユダヤ人の王」となる子供の誕生を恐れて幼児虐殺を始めたため、聖家族は幼いイエス・キリストを連れてエジプトへ逃れました。外典福音書では、この逃避の途上で起きた奇跡的なエピソードが詳しく語られています。

「偽マタイの福音書」によると、聖家族は旅の途中でナツメヤシの木の下で休息しました。聖母マリアが木に実った果実を欲しがった際、ヨセフは枝が高くて手が届かないと答えましたが、幼子イエスの奇跡によって枝が地面に曲がり、彼らは果実を取ることができました。さらに、木の根元からは澄んだ泉が湧き出たとされています。

作品

コレッジョは、この休息の場面を、聖家族の愛情あふれる日常生活の中で描いています。画面左側には、ナツメヤシの枝をつかんで果実をもぎ取ろうとするヨセフが描かれ、その手から果実を受け取るためにイエスが手を伸ばしています。幼子イエスは、鑑賞者の方を強く見つめています。画面右側には、アッシジの聖フランチェスコが聖家族の前にひざまずき、自分自身を紹介しています。聖フランチェスコは、ヨセフが手にしている果実を求めているように見えます。聖母マリアは聖フランチェスコの方を見ています。

コレッジョは、レオナルド・ダ・ヴィンチの愛情表現とラファエロ・サンツィオの調和を融合させ、さらにトスカーナの初期マニエリスムの影響も受けています。作品には、旅の途上を示す杖や、ワインの瓶、盃などの静物も描かれています。

特筆すべき点は、この場面に12世紀から13世紀の聖人である聖フランチェスコが描かれていることです。これは、絵画の発注主であるフランチェスコ・ムナーリが聖人と同じ名前を持ち、また絵画がフランチェスコ会に属する教会の祭壇画として制作されたためです。

この絵画で重要な役割を果たすナツメヤシは、古来より聖なる植物とされており、ヨセフとマリアを結びつけ、聖母マリアの無原罪の御宿りを象徴しています。フランチェスコ会にとって無原罪の御宿りは重要な信仰であり、この作品は、エジプト逃避と聖フランチェスコを通して無原罪の御宿りのテーマにアプローチしています。コレッジョは、聖フランチェスコを聖家族の奇跡の証人として、また聖家族と信仰者の仲介者として描きました。

来歴

この絵画は、17世紀までは『ヤシの木の聖母』として知られていました。1638年、フランチェスコ会の修道士によってモデナおよびレッジョ公のフランチェスコ1世・デステに売却され、その後、1649年にアンドレア・デル・サルトの『イサクの犠牲』と引き換えにトスカーナ大公フェルディナンド2世・デ・メディチに売却されました。すぐにメディチ家のコレクションの傑作としてトリブーナで展示されました。18世紀半ばに、デステ家のコレクションの多くがドレスデンに移されましたが、本作はメディチ家が所有していたためイタリアに残りました。

この作品は、コレッジョの卓越した画力と、宗教的テーマへの深い洞察が融合した、ルネサンス美術の傑作の一つです。

脚注

参考文献

ルチア・フォルナーリ・スキアンキ『コレッジョ イタリア・ルネサンスの巨匠たち28』森田義之訳、東京書籍（1995年）

外部リンク

ウフィツィ美術館公式サイト, コレッジョ『聖フランチェスコのいるエジプトへの逃避途上の休息』

関連項目

幼児キリストの礼拝 (コレッジョ))
フランチェスコ会
無原罪の御宿り
ナツメヤシ

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