聖家族と幼子洗礼者聖ヨハネ (ポントルモ)

『聖家族と幼児洗礼者聖ヨハネ』は、イタリアのマニエリスム期の画家ヤコポ・ダ・ポントルモが1522年から1523年頃に制作した油彩画です。元々はロッソ・フィオレンティーノの作品とされていましたが、現在はポントルモの初期の傑作として知られています。この作品は、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に所蔵されており、制作前に描かれた準備素描は、フィレンツェのウフィツィ美術館に保管されています。

ポントルモは、アンドレア・デル・サルトに師事し、初期マニエリスムを代表する画家の一人です。彼は、人体を誇張したポーズや、明るく人工的な色彩を組み合わせた独特の画風を確立しました。この作品は、ポントルモの画風が色濃く反映された、特異な作風を伝える傑作です。特に、明るい色彩と神経質な表現は、他の作品にはない特徴を持っています。

画面の中央には、聖母マリアと幼子イエス・キリストが描かれています。彼らは、暗闇の中で非常に高い明度と彩度を与えられ、まるでエナメルのような光沢を帯びて浮かび上がっています。聖母の表情は、ルネサンス絵画に見られるような穏やかな母性愛に満ちたものではなく、まるで冷たく気位の高い貴婦人のように端正です。それは、まるで個人の肖像画のようです。

鑑賞者の視線は、まずヒワで遊ぶ幼子イエスに移り、次に悲しみをたたえる聖母の顔へと流れ、そして諦めを示す聖ヨセフと幼児洗礼者聖ヨハネの顔へと移ります。最後に、画面奥の暗闇へと沈んでいきます。幼子イエスと幼児洗礼者聖ヨハネの微笑みは、その裏に不気味な不安を漂わせています。また、聖母に背を向けて立つ聖ヨセフの姿は、救いのない寂しさを感じさせます。

この作品は、ポントルモの初期の画風を理解する上で非常に重要な作品であり、その後のマニエリスム絵画の発展に大きな影響を与えました。聖家族と幼児洗礼者聖ヨハネという伝統的なテーマを扱いながらも、ポントルモ独自の解釈と表現により、独特の世界観を創り上げています。

参考文献:

• - 五木寛之編著『NHK エルミタージュ美術館 2 ルネサンス・バロック・ロココ』、日本放送出版協会、1989年刊行 ISBN 4-14-008624-6

外部リンク:

• - Web Gallery of Artサイト、ヤコポ・ダ・ポントルモ『聖家族と幼児洗礼者聖ヨハネ』 (英語)

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