聖母子と幼児洗礼者聖ヨハネ (ポントルモ)

ヤコポ・ダ・ポントルモ作『聖母子と幼児洗礼者聖ヨハネ』

ヤコポ・ダ・ポントルモが描いた『聖母子と幼児洗礼者聖ヨハネ』は、マニエリスム期のイタリアを代表する絵画作品です。油彩で板に描かれたこの作品は、ポントルモの円熟期に制作されたにもかかわらず、未完成のまま現在に至っています。現在はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されており、同美術館の素描・版画部門には、この作品のための準備素描も保管されています。

制作年代については、1534年から1536年とする説と、アントニオ・ナタ―リが提唱する1529年から1530年とする説があります。

歴史的背景

美術史家ジョルジョ・ヴァザーリの著書『画家・彫刻家・建築家列伝』によれば、この作品は、ポントルモが自宅の改築工事の代金として、レンガ職人に提供するために制作したとされています。工事期間は1529年に始まり、1534年から1535年にかけて終了したとされています。作品が未完成である理由は、1529年10月から1530年8月にかけてフィレンツェが包囲されたことに起因すると考えられています。この時期はフィレンツェの人々にとって非常に困難な時期であり、ポントルモの繊細な性格にも深く影響を与えた可能性があります。

その後、この作品は教皇レオ11世によって購入されたと伝えられています。その後、トスカーナ大公国の所有となりましたが、画家に対する批判があったため、ウフィツィ美術館の展示室から倉庫に移動させられました。1907年、美術史家カルロ・ガンバによって再発見され、ポントルモの真作として疑いの余地がないと結論付けられました。

作品の特徴

この作品は、ポントルモの作品に特徴的な明るい色彩が、超現実的な雰囲気を醸し出しています。この色彩は、夢幻的で演劇的な作品の特質を高める役割を果たしています。また、レオナルド・ダ・ヴィンチの様式への意図的な回帰が見られる一方で、ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂の天井画に触発された人体造形の技術も用いられています。

特に、身体の表裏を描き分けるためにポントルモが使用している純粋な色彩は、ミケランジェロの作品から直接影響を受けていると考えられています。洗礼者ヨハネのねじれた身体像や痛々しい表情、そして幼子イエスの長く引き伸ばされた脚は、同時代のミケランジェロの作品、特に『メディチ家の聖母』(サン・ロレンツォ聖堂、フィレンツェ)からの影響が指摘されています。

聖母マリアと幼児ヨハネの間には親密な関係が見られる一方で、幼いイエスは物思いにふけるようなまなざしを鑑賞者ではなく、遠くへと向けています。このため、当初は本作の主題が「慈愛」を表しているという誤解が生じたと考えられています。

ポントルモの卓越した技術と独特な様式が際立つこの作品は、マニエリスム絵画の傑作として、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

参考文献

ルチアーノ・ベルティ、アンナ・マリーア・ペトリオーリ・トファニ、カテリーナ・カネヴァ『ウフィツィ美術館』、みすず書房、1994年　ISBN 4-622-02709-7

外部リンク

ウフィツィ美術館公式サイト、ヤコポ・ダ・ポントルモ『聖母子と幼児洗礼者聖ヨハネ』 (英語)

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