聖母子と幼子洗礼者聖ヨハネ、聖バルバラ

ダニエレ・ダ・ヴォルテッラの『聖母子と幼児洗礼者聖ヨハネ、聖バルバラ』

イタリアのマニエリスム期の画家ダニエレ・ダ・ヴォルテッラが1545年から1547年頃に制作した油彩画『聖母子と幼児洗礼者聖ヨハネ、聖バルバラ』は、現在フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。ダニエレはフレスコ画や漆喰装飾を得意としていましたが、この作品は数少ない板絵の一つとして知られています。

歴史的背景

この絵画は、元々はベネデット・ファンルコンチーニの記録によると、ヴォルテッラの画家の末裔が所有していましたが、1772年にはエルチのパンノッキエスキ伯爵の手に渡りました。1979年には輸出禁止措置が取られ、個人所有であったダニエレ・ダ・ヴォルテッラの最後の作品でしたが、2019年9月にウフィツィ美術館が取得しました。

作品の特徴

絵画の中心には聖母マリアが描かれており、彼女の背後には灰色の石柱があります。聖母は幼子イエスを抱き、幼児洗礼者聖ヨハネが「ecce agnus dei（見よ、神の仔羊）」と書かれた巻物を広げるのを手伝っています。画面右側には聖バルバラが描かれており、緑色の服にピンク色のショール、黄土色のマントを羽織っています。彼女の髪型は古代彫刻を思わせ、四角い顔が特徴的です。

聖バルバラは、この絵画において重要な役割を果たしています。彼女はアクロバティックなポーズで描かれ、空間の奥行きを強調する前面短縮法が用いられています。背後の塔は、彼女がキリスト教に改宗したため父親に幽閉されたという悲劇的な物語を象徴しています。彼女は改宗を拒んだため、胸を切り裂かれるなどの拷問を受けました。そのため、この絵画では衣服の襟元が下げられ、乳首が露わになっています。

ダニエレはローマでラファエロの弟子ペリーノ・デル・ヴァーガの工房で学び、その後独立しました。この絵画に見られるように、人物像を円形の調和の中に配置する手法は、ペリーノ・デル・ヴァーガの影響を受けています。しかし、彫刻的な形態や色彩は、ミケランジェロの研究、特にシスティーナ礼拝堂の『最後の審判』の影響を受けています。ダニエレはミケランジェロ同様に、入念に計算された前面短縮法を用いており、それは洗礼者ヨハネの巻物を支える聖母の腕や聖バルバラの配置、イエスの動きに見ることができます。

まとめ

『聖母子と幼児洗礼者聖ヨハネ、聖バルバラ』は、ダニエレ・ダ・ヴォルテッラの芸術的才能と、ルネサンス美術の巨匠たちの影響が融合した作品です。特に聖バルバラの描写は、彼女の悲劇的な物語と画家自身の芸術的解釈が組み合わさった、見応えのある部分と言えるでしょう。

参考文献

岡田温司監修『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』、ナツメ社、2011年刊行　ISBN 978-4-8163-5133-4

外部リンク

ウフィツィ美術館公式サイト、ダニエレ・ダ・ヴォルテッラ『聖母子と幼児洗礼者聖ヨハネ、聖バルバラ』 (英語)

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