聖母子と3人の天使 (ボッティチェッリ)

サンドロ・ボッティチェッリ作『聖母子と3人の天使』は、初期ルネサンスの巨匠ボッティチェッリが、1493年頃にテンペラを用いて板に描いた円形画（トンド）です。この作品は、別名『パディリオーネの聖母』とも呼ばれ、ミラノのアンブロジアーナ絵画館に所蔵されています。

この作品について、ジョルジョ・ヴァザーリは『画家・彫刻家・建築家列伝』の中で、「フィレンツェのデリ・アンジェリ修道院長の部屋にある小さな円い絵も彼の作であり、非常に美しい作品である。そこには多数の小さな人物像が描かれており、優雅で、よく考えられ、美しく配置されている」と記述しています。

絵画の中心には、聖母マリアが描かれており、彼女は幼子イエスに授乳するため、胸をはだけています。幼子イエスは、天使によって支えられており、聖母に手を伸ばしています。この場面は、聖母マリアの母性愛と、幼子イエスの神性を象徴的に表現しています。また、この作品のイタリア語の題名にある「パディリオーネ」は「幕屋」を意味し、画面を覆う赤い天蓋を指します。この天蓋は、2人の天使によって儀式的に開かれています。天蓋の布地は透けており、向こう側の山並みや建築物がうっすらと見えるという、凝った演出がなされています。

画面手前に置かれた小さな祈祷台の上には、開かれた書物が描かれています。これは、イエスの象徴であり、「言（ことば）は肉体となり」（ヨハネによる福音書1:14）という聖句を暗示しています。幼子イエス自身も、書物を手で指しており、自らの神性を明らかにしています。また、聖母マリアが大きく描かれているのは、ボッティチェッリの晩年の特徴的な様式であり、重要な人物を大きく描くことで、その存在感を際立たせています。

さらに、この作品は旧約聖書との関連性も示唆しています。幕屋は、旧約聖書の出エジプト記に登場する移動可能な神殿であり、神の言葉を収めた契約の箱を保管するために、神の指示通りに建てられたものです。本作において、聖母マリアは新たな契約の箱と見なされており、彼女が神の言葉（イエス・キリスト）をその身に宿したことを意味しています。書物と開かれた幕屋は、旧約聖書の預言が聖母を通してイエスが生まれたことで成就したという解釈を加えています。

このように『聖母子と3人の天使』は、ボッティチェッリの卓越した技術と深い宗教的洞察が結実した作品であり、聖母マリアとイエス・キリストの神聖な関係性を、美しい構図と象徴的な要素を通じて表現しています。この作品は、ルネサンス美術における聖母子像の傑作として、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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