聯合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令

聯合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令（昭和21年勅令第311号）

連合国占領下の日本において、連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）の占領目的に有害な行為の処罰について定めた勅令、通称「ポツダム命令」の一つです。当時、法令番号から「勅令第311号」または「勅令311号」と呼ばれていました。

沿革

日本の降伏文書調印により、天皇および日本国政府の統治権は連合国最高司令官（SCAP）の制限下に置かれました。日本国政府はポツダム宣言の実施に必要なSCAPの命令に従う義務を負い、SCAPの命令は日本国政府を絶対的に拘束しました（間接統治）。

日本国政府はSCAPの要求に従い、占領目的に有害な行為を取り締まる必要がありましたが、罪刑法定主義の観点から、処罰の根拠となる法令が必要でした。そこで、「ポツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件（昭和20年勅令第542号）により、SCAPの要求を実施するために必要な場合には罰則を定めることが可能となり、勅令等による罰則制定が可能となりました。

しかし、罰則が事前に定められていない行為については処罰できず、SCAPからの要求に対応できない事態が発生しました。これはSCAPの要求の実効性を損なうものであり、欠陥とみなされました。

そこで、SCAPは1946年2月19日付けで「刑事裁判権の行使に関する覚書」（SCAPIN-756）を発し、日本国政府は同年5月15日に刑事裁判権等の特例に関する勅令（昭和21年勅令第274号）を定めましたが、GHQはこの勅令が覚書の趣旨を十分に満たしていないと考えました。

GHQは、占領目的に有害な行為に対する網羅的な処罰を可能とするため、1946年5月17日に本令の原案を日本国政府に示し、1週間以内の制定・公布を命じました。本令は日本の既存の法体系とは相容れない要素が多く、当時の法制局や司法省は抵抗しましたが、GHQの法務局（LS）が譲らなかったため、本令が制定されることとなりました。

本令は、連合国占領軍の占領目的に有害な行為について一般的・抽象的な罰則を定め、SCAPの要求に応えることを目的とした勅令です。

内容

本令は、占領目的に有害な行為の処罰のほか、起訴法定主義、連合国人等に対する裁判権の制限について定めていました。不明瞭な点については連合国占領軍と緊密に連絡を取り合い、了解を取って運用することとされていました。

占領目的に有害な行為の処罰

占領目的に有害な行為を網羅的に処罰するため、極めて抽象的な構成要件が定められました（第2条第3項）。

SCAPの日本帝国政府に対する指令の趣旨に反する行為（指令違反）
指令を施行するために、連合国占領軍の司令官の発する命令の趣旨に反する行為（指令施行命令違反）
指令を履行するために、日本帝国政府の発する法令に違反する行為（管理法令違反）

これらの規定により、SCAPの指令が直接国内法的効力を有するようになり、指令の名宛人が日本国民でなくても、その「趣旨」に反した場合には処罰が可能となりました。このことは、間接統治の原則に違背するのではないかとの疑問も呈されていました。

罪刑法定主義との関係

本令は、一般的・抽象的な刑罰法規を定めていることから、罪刑法定主義に反するのではないかという批判がありました。團藤重光は、「ほとんど罪刑法定主義を抛棄するていどのものといつてよい」と評しています。

日本国政府は、本令をできる限り罪刑法定主義に反しないようにするため、国内で法制化されていない指令・命令で国民に関係のありそうなものについては、官報に掲載しましたが、法的効果はありませんでした。

起訴法定主義

占領目的に有害な行為の処罰については公訴を提起しなければならず、公訴の取消しは連合国軍事占領裁判所に管轄が移された場合のみ認められました。これにより、刑事訴訟法上の原則である起訴便宜主義を否定し、起訴法定主義を採用しました。

これは、GHQの法務局が、検事の裁量権濫用を懸念したためとされています。

実際の運用

起訴法定主義の最大の問題は、起訴猶予処分を行うことができないことでした。しかし、実際には連合国軍の地方軍政部に照会し、地方軍政部が不起訴を指示した場合には、検察官は起訴猶予処分を行うことが認められていました。

特に、1947年8月25日から連合国占領軍財産等収受所持行為が日本側の裁判権に服する際には、GHQから軽微な事件は手心を加えて処分しないよう求められるなど、GHQ側から裁量による起訴猶予処分を活用するよう求められていました。

裁判権の制限

以下の罪については連合国側で裁判を行わせるため、日本側では公訴を提起しないものと定められました。

連合国人（法人を含む）の犯した罪
連合国占領軍・将兵・連合国占領軍に附属随伴する者の安全に対し有害な行為
連合国占領軍の将兵・連合国占領軍に附属随伴する者を殺害・暴行する行為
連合国占領軍・将兵・連合国占領軍に附属随伴する者の財産を不法に所持・取得・受領・処分する行為（連合国占領軍財産等収受所持行為）
連合国占領軍・SCAP・権限のある部下によって捜索されている者の逮捕を妨げ、拘禁されている者の逃走を容易にさせる行為
連合国占領軍・将兵・連合国占領軍に附属随伴する者の職務を妨害する行為・要求する情報の提供を拒絶する行為・虚偽や誤解を招く申述・欺罔行為
SCAP又はその命令によって解散させられ、又は非合法であると宣告された団体の為にする行為・それを支援する行為
* 上記行為の共謀・教唆・幇助

1947年8月25日に、連合国占領軍財産等収受所持行為の裁判権が日本側に移管されました。

全部改正

本令は、1950年に全部改正され、占領目的阻害行為処罰令（昭和25年政令第325号）となりました。

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