胃十二指腸動脈

胃十二指腸動脈（いじゅうにしちょうどうみゃく）

胃十二指腸動脈は、腹腔内に位置する消化器系の臓器に血液を供給する重要な血管です。具体的には、胃の一部である幽門、そして十二指腸、さらに膵臓の一部へと血液を供給する役割を担っています。これは、腹腔動脈から分かれる主要な血管の一つとして認識されています。

解剖学的特徴と走行

この動脈は、最も一般的には腹腔動脈から分岐する総肝動脈を起源とします。しかし、血管の起始部や走行には個人差が見られることも少なくありません。総肝動脈から分岐した後、胃十二指腸動脈は下行し、複数の重要な血管を派生させます。最初に、十二指腸上動脈が分岐します。続いて、後上膵十二指腸動脈を分枝させます。これらの分枝は、十二指腸や膵臓頭部への血流供給に関与します。

胃十二指腸動脈はさらに下行を続け、最終的には通常、右胃大網動脈と前上膵十二指腸動脈（時に上膵十二指腸動脈とも呼ばれます）の二つの終末枝に分かれて終わります。右胃大網動脈は胃の大弯に沿って走行し、胃への血流供給を行います。前上膵十二指腸動脈は、後上膵十二指腸動脈と同様に膵臓と十二指腸への重要な供給路となります。

特に注目すべきは、前上膵十二指腸動脈と後上膵十二指腸動脈が、上腸間膜動脈から派生する前後の下膵十二指腸動脈と吻合し、十二指腸および膵臓頭部を取り囲む豊富な動脈網を形成することです。この吻合ネットワークは、これらの臓器への安定した血流供給を保証する上で極めて重要です。

これらの分枝のパターン、特に前後の上膵十二指腸動脈がそれぞれ独立して分岐するか、あるいはまれに共通の幹から出るかなど、正確な走行や分枝様式には多様性があることを理解しておく必要があります。

病理学的意義

胃十二指腸動脈は、特定の病態において臨床的に非常に重要な意味を持ちます。中でも、消化性潰瘍疾患の合併症として発生する重篤な胃腸出血の主要な原因血管となり得ます。これは、十二指腸の第二部の後内側壁が胃十二指腸動脈と解剖学的に非常に近接しているためです。

深く進行した十二指腸潰瘍や、この領域に発生した悪性腫瘍が血管壁を侵食した場合、胃十二指腸動脈からの激しい動脈性出血を引き起こす可能性があります。この血管からの出血が生命を脅かすほど大量になりやすい理由の一つは、前述のように、この領域を取り囲む発達した動脈網によって血管内の血流量が非常に多いことにあります。臨床現場では、この血管からの出血は止血が困難な場合があり、その解剖学的特徴から「出血の動脈」と称されることもあります。

このように、胃十二指腸動脈は消化器系の血流供給において中心的な役割を担うだけでなく、消化器疾患における重篤な合併症、特に大量出血の観点から、その解剖と病態生理学的意義を深く理解することが、臨床医療において不可欠とされています。

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