胡深

胡深（こ しん）

胡深（1313年 - 1365年）は、元末から明初にかけて活躍した軍人です。字は仲淵といい、処州龍泉（現在の浙江省龍泉市）の出身です。彼は卓越した知略と人望で、朱元璋の台頭を支え、明朝の建国に大きく貢献しました。

生涯

元末の動乱と自警団の結成

胡深は、章溢と同郷であり、共に王毅の下で学問を修めていました。元末の混乱期、胡深は「浙東の地は戦乱を免れない」と予見し、龍泉の子弟を集めて自警団を組織しました。その後、石抹宜孫が処州の守備に就くと、胡深はその参軍事として迎えられました。

彼は募兵によって数千の兵力を集め、各地で跋扈する山賊を討伐しました。温州で韓虎らが反乱を起こした際には、胡深は単身で説得にあたり、韓虎を誅殺し、温州城を無血開城させることに成功しました。龍泉が盗賊に占拠された際には、章溢と共に反乱を鎮圧し、宝忽丁を討ち取りました。これらの活躍を通じて、胡深は石抹宜孫の信頼を得て、元帥にまで昇進しました。

朱元璋との邂逅と降伏

1358年、朱元璋の武将・胡大海が婺州を攻略し、朱元璋自身も進軍してきました。胡深は援軍として派遣されましたが、朱元璋の策略によって敗北し、婺州は朱元璋の手に落ちました。

翌年、胡大海と耿再成が処州を攻めると、胡深は龍泉に兵を駐屯させました。しかし、士気が低く、朱元璋軍に敗北。石抹宜孫は建寧に逃亡し、処州は朱元璋の支配下となりました。この時、朱元璋軍の武将・繆美は、降伏した葉琛を通じて胡深を説得させました。胡深は葉琛の言葉を受け入れ、龍泉、慶元、松陽、遂昌の4県を朱元璋に明け渡して降伏しました。

朱元璋の配下としての活躍

朱元璋は、以前から胡深の評判を聞いており、彼を召し出して会見しました。胡深は左司員外郎に任命され、処州に派遣されました。彼は兵を募り、江西征伐に従軍。親軍指揮として吉安の守備を任されました。

1362年、処州で苗軍が反乱を起こし、守将・耿再成が殺害される事件が発生しました。胡深は邵栄、王佑らと共に処州に赴き、反乱を鎮圧しました。李佑之を自殺に追い込み、賀仁得を捕らえて処刑しました。

処州の統治と軍事活動

中書分省が浙東行中書省に改められると、胡深は行省左右司郎中として処州の統括を任されました。当時、処州では山賊が横行し、人心が安定していませんでしたが、胡深は募兵によって1万以上の兵力を集め、山賊の討伐に成功し、治安を回復させました。

また、胡深は市場の税制を改革し、物資の流通を促進しました。1363年には、張士誠に寝返った謝再興が東陽に攻め入ると、胡深は李文忠の指揮下で出陣し、謝再興を撃退しました。彼は五指山に新城を築き、防御体制を強化しました。この新城は、後に張士誠軍の猛攻を防ぎ、胡深の功績は朱元璋からも高く評価されました。

1364年、朱元璋が呉王となると、胡深は王府参軍となり、引き続き処州を守備しました。温州の豪族・周宗道が朱元璋に降伏すると、方国珍がこれを攻めましたが、胡深は軍を派遣して撃退。方国珍は銀を贈ることで和睦を求め、朱元璋の命令で胡深は軍を撤退させました。

陳友定との戦いと最期

1365年、諸全が張士誠軍に攻められたため、胡深は援軍を派遣しましたが、陳友定の軍が処州を攻めてきました。胡深はこれを迎え撃ち、浦城を攻略しました。その後、松渓を抜け、守将の張子玉を捕らえました。胡深は朱元璋に福建攻略を進言し、朱元璋はこれを許可しました。胡深は朱亮祖らと共に進軍を開始。

しかし、建寧の戦いで朱亮祖の拙速な判断から苦戦を強いられ、阮徳柔の軍勢に包囲されてしまいました。最終的に、陳友定の挟撃を受け、落馬して捕らえられました。陳友定は胡深を自身の配下に加えようと説得しましたが、胡深は朱元璋への忠誠を貫き、拒否。朱元璋は胡深の返還を求めましたが、陳友定は元の使者に唆されて胡深を処刑しました。享年52歳でした。

胡深の死を知った朱元璋は、その死を深く悼み、手厚く弔いました。縉雲郡伯の爵位を追贈し、その功績を称えました。

人物と逸話

胡深は、聡明で知略に優れ、経史や百家の学問に通じていました。温厚で寛大な人柄で、10年以上にわたる戦歴の中で、無益な殺戮は決して行いませんでした。処州の統治においては、教育を奨励し、民の負担を軽減する政策を実施しました。

婺州への援軍に向かった際、胡深は不吉な兆候を察知していましたが、兵士を鼓舞するため、あえて吉兆であると述べたという逸話が残っています。また、劉基は胡深の死を予見したとされる逸話もあります。朱元璋は、胡深を失ったことを深く嘆き、宋濂に胡深の人となりを尋ねています。その際、朱元璋は胡深を「浙東の一障」と評し、その才能を惜しみました。

2009年、胡深が使用していたとされる大刀が発見され、その巨大さから胡深の武勇を偲ぶことができます。

参考文献

『明史』
『明史紀事本末』
『国初群雄事略』
『続資治通鑑』

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