脱隊騒動

脱隊騒動：長州藩における反乱事件

脱隊騒動は、1870年（明治3年）に長州藩で発生した、藩政改革に対する不満から奇兵隊などの諸隊が起こした反乱事件です。

騒動の背景

1869年（明治2年）の版籍奉還により、長州藩は石見国浜田と豊前国小倉の領地を返還しました。これにより収入が減少したため、藩知事の毛利元徳は藩政改革を断行。奇兵隊を含む5,000人以上の諸隊を、御親兵の四大隊2,250人に再編し、残りの3,000人以上を解雇しました。この際、御親兵の採用基準は従軍の功績ではなく、身分や役職で選別されたため、旧干城隊の隊員が再雇用される一方で、各地を転戦した平民出身の諸隊士は職を失いました。こうした状況が不満を募らせ、1870年1月1日、旧奇兵隊士の一部や振武隊、鋭武隊の隊士ら約1,200人が脱隊騒動を起こしました。

騒動の激化

脱隊した旧諸隊士たちは、1870年2月13日に浜田裁判所を襲撃。2月24日には山口藩議事館を包囲し、旧干城隊との間で戦闘が発生しました。この際、付近の農民一揆も合流し、包囲は1,800人規模にまで拡大しました。

木戸孝允の帰藩と鎮圧

事態を収拾するため、東京から木戸孝允（桂小五郎）が帰藩しました。木戸は当初、廃藩置県のために薩長土の軍を明治政府の御親兵として準備する目的で帰藩しましたが、脱隊騒動の鎮圧を毛利元徳から依頼され、指揮を執ることとなりました。山口藩は、常備兵300名に加え、第四大隊250名、大阪兵学寮80名、上関と宇部の援軍100余名からなる800名の討伐軍を編成し、脱隊軍と対峙しました。

1870年3月10日、討伐軍は柳井田関門で脱隊軍と会戦しました。一時は討伐軍が優勢でしたが、反撃を受け、三田尻（防府）に撤退。2日後、再び柳井田関門を攻略し、脱隊軍を潰走させました。この戦いで小郡と防府が激戦地となり、特に防府の天徳寺では、脱隊軍が立て籠もった際に社殿が焼失する被害が出ました。

この一連の戦闘で、脱隊軍は戦死60名、負傷73名、討伐軍は戦死20名、負傷64名の人的被害が出ました。農商出身の1,300名は帰郷を許され、功労者と認められた600名には扶持米が支給されましたが、首謀者とみなされた長島義輔ら35名は処刑されました。

大楽源太郎の逃亡

脱隊騒動の首謀者とみなされた大楽源太郎は、3月5日に出頭命令を受けましたが、身の危険を感じて逃亡。大楽は、文明開化・富国強兵路線を推進した大村益次郎が暗殺された事件に関与していると疑われ、多くの門弟が脱隊騒動に参加していたことが理由でした。

大楽は、九州の豊後国姫島を経て、旧知の河上彦斎を頼り鶴崎へ逃れました。しかし、河上は挙兵に反対し、大楽は排外主義的な鎖国攘夷論者を糾合して明治政府打倒を画策しました。1871年3月、広沢真臣暗殺事件の捜査中に二卿事件が発覚。大楽は久留米藩の応変隊を頼りましたが、久留米藩への飛び火を恐れた応変隊士に処断され、河上も逮捕・処刑されました。

その後の長州藩

脱隊騒動後、木戸孝允は規律と財政を重視せざるを得ない立場にありました。一方で、かつて干城隊頭取として諸隊と共闘した前原一誠は、諸隊士の解雇や脱隊者の討伐に反対し、木戸と対立。前原は兵部大輔の職を辞して下野しましたが、後に萩の乱を起こして鎮圧され、処刑されました。また、処罰を逃れた旧諸隊士の一部は、豊後水道の無人島を根拠地として海賊に身を落としたとも言われています。

脱隊騒動は、長州藩の近代化における矛盾と、旧体制からの転換期における混乱を象徴する事件であり、その後の萩の乱などにも影響を与えたと考えられています。

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