臥雲辰致

臥雲辰致（がうん たつむね）

臥雲辰致は、天保13年（1842年）に信濃国安曇郡小田多井新田村（現在の長野県安曇野市）で生まれました。幼名は栄弥といい、横山家というかつては豪農であった家に生まれましたが、父の代に没落しました。家業の足袋底織業を手伝う中で、少年時代から紡績機械の改良を考えるようになりました。

20歳で出家し、智恵と名乗りました。その後、末寺の住持となりますが、明治政府の廃仏毀釈により還俗し、臥雲辰致と名乗るようになりました。この「臥雲」という姓は、住持を務めていた寺の山号に由来します。

ガラ紡の発明と普及

幕末の開国以来、日本の紡績業は輸入綿糸に押されていましたが、1873年（明治6年）に臥雲は独自の紡績機「ガラ紡」を発明しました。この機械は、その騒音から「ガラ紡」とも呼ばれました。1877年（明治10年）には、第一回内国勧業博覧会に出展し、最高の賞である鳳紋賞牌を受賞し、広く知られるようになりました。

ガラ紡は、西洋式の紡績機に比べて構造が簡単で、少ない資本で設置できるため、全国各地に普及しました。しかし、模倣品が横行し、連綿社は経営難に陥り、1880年（明治13年）には閉鎖に追い込まれました。また、洋式紡績機の普及により、ガラ紡は次第に衰退していきました。

その後の活動

1878年（明治11年）に結婚し、後半生は波多村（現在の松本市）を拠点に過ごしました。1890年（明治23年）には、養蚕に役立つ蚕網を織るための新しい織機を発明し、特許を取得しました。この織機は、従来の織機に比べて生産効率が15倍も高く、第三回内国勧業博覧会で3等有功賞を受賞しました。晩年は、自ら工場を建てて蚕網の製造に取り組みましたが、病に倒れ、1900年（明治33年）に亡くなりました。

ガラ紡と洋式紡績

臥雲の時代、日本は欧米の産業革命の波に乗り遅れていました。輸入される綿糸布は、日本の産業を圧迫し、大きな問題となっていました。政府は、官営工場を設立したり、機械の払い下げを行うなど、近代的な紡績業の育成に力を入れていました。ガラ紡は、その中で、比較的簡単に導入できる紡績機として普及しましたが、洋式紡績機の台頭により、その役割を終えました。

ガラ紡の現在

ガラ紡で紡がれた糸は、太くて均質ではありませんが、その風合いから柔らかく吸湿性に優れているという特性があります。その特性が好まれ、現在でも一部で生産されています。2014年には、臥雲辰致の業績を紹介する展示会が開催され、その足跡をたどる現地見学会も行われました。

臥雲辰致の名前の読み方

「辰致」の読み方には諸説ありますが、地元や子孫の間では「たっち」と呼ぶことが多いようです。しかし、研究者の中には「ときむね」と読むべきだと主張する人もいます。文献によっても読み方が異なっており、「しんち」「たつむね」「たつとも」など様々な読み方が存在します。

臥雲辰致の功績と評価

臥雲辰致は、その発明によって日本の綿業に貢献した人物として、現在も高く評価されています。彼の業績は、小学校の教科書にも掲載され、顕彰碑も建てられています。また、岡崎市名誉市民にも選ばれています。2013年の大学入試センター試験でも、その名前が出題され、発明家としての功績が問われるなど、その存在は広く知られています。

参考文献

• - 村瀬正章『臥雲辰致』吉川弘文館人物叢書125、1965年2月
• - 宮下一男『臥雲辰致』郷土出版社、1993年6月、ISBN 4-87663-218-9
• - 北野進『臥雲辰致とガラ紡機』アグネ技術センター、1994年7月
• - 百瀬泰『私の小さな足跡』あずさ書店、1994年2月
• - 『市民タイムス』2010年9月19日記事（小松芳郎による連載「脚光－歴史を彩った郷土の人々13　臥雲辰致」）

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