舘矢間村

宮城県伊具郡に位置していた舘矢間村（たてやまむら）は、阿武隈川の西岸に広がる地域でした。この村は昭和29年（1954年）まで存在し、現在の丸森町にある舘矢間舘山、舘矢間木沼、舘矢間松掛、舘矢間山田、および大舘、木沼といった地区にその名残をとどめています。

村は明治22年（1889年）4月1日、町村制が施行された際に、それまでの舘山村、木沼村、松掛村、山田村、小田村の五つの村が合併して誕生しました。その後、昭和3年（1928年）4月1日には、旧小田村の区域が隣接する角田町に移管されています。また、昭和27年（1952年）4月1日には、村立舘矢間中学校（昭和22年開校）が丸森町立丸森中学校と統合され、丸森町に村と町の組合立による丸舘中学校が設けられました。そして、昭和29年（1954年）12月1日、伊具郡内の丸森町、金山町、大内村、大張村、耕野村、小斎村、筆甫村とともに合併し、新たな丸森町の一部となりました。

村の行政は、伊具郡舘矢間村大字舘山字長内に置かれた舘矢間村役場によって執り行われていました。防災体制としては、舘矢間村消防団が組織され、5分団10班体制で、当時の団員数は137名でした。装備としては、手押し腕用消防ポンプが10台備えられていました。消防の歴史をたどると、明治27年（1894年）に消防組規則が公布され、初代組頭山本甫氏のもとで舘矢間消防組が設置されたことに始まります。昭和14年（1939年）、第二次世界大戦下の空襲の危機に対処するため警防団令が発布されると、消防組は勅令団体である警防団に改編されました。戦後の昭和22年（1947年）には、防災体制強化のため消防団令が発布され、警防団は消防団に改組されて廃止されました。同年12月には消防組織法が公布され、消防は警察から独立した組織となります。さらに昭和23年（1948年）、日本国憲法の施行と地方自治法の制定に伴う消防組織法の改正により、消防は国から市町村が管轄する自治体消防へと移行し、市町村が消防事務や消防団の管理運営を担うことになりました。村の合併後、昭和29年12月1日をもって組織名は丸森町消防団舘矢間分団へと変わりました。治安に関しては、角田警察署舘矢間駐在所が設けられていました。

舘矢間村では当時、村内の水田で使用する農業用水利施設の管理も重要な業務でした。特筆すべき施設として、弁財天用水池、通称「弁天沼」があります。これは慶長元年（1596年）に木沼の宗吽院の院主が中心となり、弁天社（厳島神社）とともに建設された農業用水の溜池です。山田地区に位置し、まず堤が築かれ、小坂沢の清流が板付と呼ばれる場所で堰き止められ沼へ導かれました。さらに市の沢の清流や周辺の沢水なども集められ、洞場と呼ばれる場所で流量を調整し、村内の舘山、木沼、松掛など約132ヘクタールの水田へ水を供給していました。溜池としての機能だけでなく、当時は景勝地としても知られ、蓮が群生し、周囲の山々と水を満たした美しい景観は人々を魅了しました。沼には多様な植物や魚類が生息し、村民はこれらを採取して生活の一部としていました。冬には沼に厚い氷が張り、切り出した氷は氷室に貯蔵され、蚕種の保管、夏季の魚の冷却、病人の解熱など、地域の人々の暮らしに役立てられました。しかし、農繁期になると沼の水が不足し、水が十分に行き渡らない状態が頻繁に発生したため、阿武隈川から水を取り込み、ポンプで揚水する計画が進められ、工事が実施されました。

昭和8年（1933年）には、阿武隈川沿いの丸森橋上流に舘矢間第一揚水機場が建設されました。揚水ポンプ（30馬力）1台と幹線水路が新たに設けられ、約190ヘクタールの水田へ水が送られるようになり、舘矢間村の用水不足は解消されました。同時に、弁天沼は干拓され、18ヘクタールの水田へと生まれ変わりました。現在も稼働している弁天揚水機場は、阿武隈川から取り込んだ水を水路から再び汲み上げ、旧弁天沼の干拓地や松掛地区へ送る二段式の揚水施設です。また、第二次世界大戦中の食糧増産要請を受けて、昭和17年（1942年）から舘矢間一区（舘矢間村大字舘山字西・中・東油田）の約36ヘクタールの桑畑などを水田に変える桑園開田耕地整理事業が始まりました。工事は昭和18年（1943年）に着工し、終戦後の昭和23年（1948年）8月に完成しました。この開田による用水不足に対応するため、昭和23年に舘矢間第一揚水機場の隣に舘矢間第二揚水機場（舘矢間桑園開田揚水ポンプ）が追加設置されました。ポンプ（40馬力）1台が設けられましたが、砂壌土の畑地を開田したため水持ちが悪く、水田に水を張っても1〜2日で水がなくなってしまう状況でした。

昭和29年（1954年）の合併後、揚水機場や水利施設の管理は丸森町が担うことになりました。しかし、第一・第二揚水機場は阿武隈川の河床低下による水位の低下やポンプの老朽化による故障で、しばしば揚水不能に陥りました。このため、管理者である丸森町は、揚水不能の問題を根本的に解決するため、抜本的な揚水施設の建設を地域の水田耕作者に求めました。昭和46年（1971年）12月10日、丸森町舘矢間土地改良区が設立され、水利施設の管理は町から土地改良区へと移管されました（後に角田土地改良区を経て、現在はあぶくま川水系角田地区土地改良区に統合されています）。土地改良区は団体営かんがい排水事業の一環として、昭和48年（1973年）3月31日に舘矢間揚水機場を建設しました。これは当時最新鋭の揚水施設で、ポンプ吐出口径500mmの75馬力電動水中ポンプが設置されました。これと同時に、揚水機場から現在の国道349号線をくぐる新しい水路（トンネル125m、地下水路275m）も設けられました。これにより、それまでの第一・第二揚水機場はその役目を終え、廃止・撤去されました。その他、昭和30年代後半から40年代前半にかけては、舘山や南木沼北東部などの約80ヘクタールの畑地を水田に変える陸田造成事業も行われました。さらに、昭和50年代から現在に至るまで、山田、松掛、木沼地区や南木沼地区の一部で大規模な圃場整備事業が実施されるなど、舘矢間地区では現在も稲作が盛んに行われています。

経済活動の中心は農業で、養蚕、水稲、陸稲、麦、大豆、その他野菜類が栽培されていました。畜産業では、酪農、養豚、採卵鶏の養鶏も行われていました。農業関連組織として、昭和23年8月15日には舘矢間村農業会と舘矢間信用組合を解散し、舘矢間農業協同組合が設立されました。昭和26年7月20日には舘矢間青果市場が開設されています（現在のJAみやぎ仙南舘矢間支所）。また、宮城県経済農業協同組合連合会の舘矢間家畜市場も存在しましたが、現在は廃止されています。

工業分野では、明治20年創業の山田石材工業（現・山田石材計画株式会社、有限会社山田石販）が石材・墓石の製造販売を行っていました。佐藤油業（現・有限会社佐藤油店）は食用菜種油などの搾油製造を手がけていました。小麦増産のため、宮城県経済農業協同組合連合会によって舘矢間製麺工場で乾燥うどんの製造も行われましたが、現在は廃業しています。また、東方農業実行組合による漬物工場も存在しましたが、こちらも現在は廃業しています。

建設業としては、昭和22年創業の株式会社本田組が土木・建築工事を行っています。

商業も栄えていました。横山久弥商店（現・株式会社横山久弥商店）は米穀や肥料、農業資材、燃料などを扱っていました。越後正實商店（現・越後商店、越後タクシー、越後自動車有限会社）は燃料販売のほか、タクシーや貨物運送、自動車整備も手がけています。このほかにも、小形輪業商会（自転車・オートバイ）、桜田商店（金物・日用雑貨、ガラス工事、閉店）、齋惣魚店（現・有限会社齋惣魚店）、菊安酒店（現・有限会社きくやす、酒類・食料品、河北新報販売店）、渡辺酒店（酒類・食料品、閉店）、遠藤屋酒店（酒類・食料品、閉店）、高橋商店（たばこ・食塩・食料品）、佐直商店（たばこ・食塩・食料品）、松井商店（たばこ・食塩・精米作業場、閉店）、阿部商店（文房具・玩具・雑貨・食料品、閉店）など、様々な商店が人々の暮らしを支えていました。

郵便業務は、舘矢間郵便局が担っていました。交通手段としては、かつて角田軌道が村内を走り、舘矢間駅が設けられていましたが、この軌道は昭和4年（1929年）に廃止されています。

教育施設としては、舘矢間村立舘矢間小学校と舘矢間村立舘矢間中学校がありました。前述の通り、中学校は後に丸森町との組合立である丸舘中学校へと統合されました。

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