舟形木棺

舟形木棺について

舟形木棺（ふながたもくかん、ふながたもっかん）とは、弥生時代から古墳時代にかけて用いられた、刳抜（くりぬき）式の木棺の一種です。丸太を縦に二つ割りにして、中をくり抜いて棺身と棺蓋を作り、それらを合わせて船のような形に整えたものを指します。この独特な形状は、当時の人々の死生観や技術力を示すものとして、考古学的に重要な意味を持っています。

概要

刳抜式木棺とは、丸太を半分に割って内面をくり抜き、外面を削って棺身と棺蓋を製作するものを指します。このうち、棺身の外底面が船底のような形状をしているものを舟形木棺と呼びます。古墳時代においては、その形状からさらに細かく分類されており、棺身の横断面が緩やかなU字形で船首と船尾の区別がないものを舟形木棺1類、U字形で船首と船尾の区別があるものを舟形木棺2類と区別します。

舟形木棺1類は、古墳時代前期初頭から前期前半にかけて、畿内周辺の有力古墳で採用されました。この時期の有力古墳では割竹形木棺の採用例が少ないことから、舟形木棺1類が古墳時代初期における最上位の棺形式であったと考えられています。一方、舟形木棺2類は、古墳時代を通じて用いられ、東日本を中心に全国に分布しています。この形状は、丸木舟や準構造船の刳船部を模したものと考えられています。

弥生時代においても、船底のような外底面を持つ木棺は舟形木棺と称されます。特に、弥生時代後期後半の丹後・但馬地方では、多数の出土例が報告されています。ただし、これらの舟形木棺は、畿内の舟形木棺1類とは異なる特徴を備えているため、「舟底状木棺」という概念が提唱されています。これは、地域ごとの文化的な違いや技術的な背景を反映していると考えられます。

舟形木棺を伴う墳墓の例

舟形木棺は、様々な墳墓から出土しており、当時の社会構造や文化を理解する上で重要な手がかりを提供しています。

平手町遺跡（弥生時代、方形周溝墓、愛知県名古屋市）：弥生時代の舟形木棺が出土した例として知られています。
雪野山古墳（古墳時代前期前半、前方後円墳、滋賀県東近江市）：全長5.2メートルの舟形木棺が出土しました。棺内は2か所の仕切り板によって3分割されており、三角縁神獣鏡も3面出土しています。この例は、当時の有力者の埋葬状況を示すものとして重要です。
下野七廻り鏡塚古墳（古墳時代後期、円墳、栃木市）：出土した舟形木棺は重要文化財に指定されており、栃木市おおひら歴史民俗資料館で展示されています。この古墳は、後期古墳における舟形木棺の利用を示す例として注目されています。

関連事項

古墳：舟形木棺は、古墳の重要な構成要素の一つです。棺の形状や材質は、被葬者の身分や社会的地位を反映していると考えられています。
棺：舟形木棺は、木棺の一種であり、当時の葬送儀礼において重要な役割を果たしました。
竪穴式石室：舟形木棺は、竪穴式石室の中に納められることもあります。石室と棺の組み合わせは、被葬者の埋葬方法や葬送儀礼を示すものです。
古墳時代：舟形木棺は、古墳時代において、特に有力者の墓に用いられた棺形式です。
割竹形木棺：舟形木棺とともに、古墳時代に用いられた代表的な木棺形式です。こちらは割竹のように丸太を縦に割って作られます。
弥生時代の墓制：弥生時代の墓制において、舟形木棺は重要な位置を占めています。特に、後期後半の丹後・但馬地方における出土例は、地域的な特徴を考察する上で重要です。

参考文献

大塚初重・小林三郎 『古墳辞典』 東京堂出版、1982年12月。ISBN 4-490-10165-1
岡林孝作『古墳時代棺槨の構造と系譜』、2018年12月

外部リンク

文化財オンライン「下野七廻り鏡塚古墳」

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