航海データ記録装置

航海データ記録装置（VDR）とは

航海データ記録装置（Voyage Data Recorder, VDR）は、船舶に搭載される重要な安全装置です。この装置は、船舶事故の原因を特定するための詳細なデータを記録し、事故調査の効率化に貢献します。VDRは、航海中の様々な情報をデジタルデータとして圧縮し、船体外部に設置された耐熱・耐圧・耐衝撃構造の保管ストレージに記録します。

VDRの搭載義務

2002年7月以降に建造された旅客船や、3000総トン以上の貨物船には、国際条約（SOLAS条約）によってVDRの搭載が義務付けられています。これは、海難事故の発生時に、より正確な事故原因を究明し、再発防止に役立てるための措置です。

VDRの機能

VDRは、航空機のフライトデータレコーダー（FDR）とコックピットボイスレコーダー（CVR）の機能を合わせたようなものです。記録されるデータは多岐にわたり、日付・時刻、船位、船速、船首方位などの航行情報に加え、船橋での音声、通信音声、レーダー画像、アラームなども記録されます。これらの情報は、事故発生時の状況を詳細に把握するために不可欠です。VDRは、事故発生時点から遡って12時間（2014年以降の規制では48時間）のデータを記録できる性能が求められています。

記録媒体

VDRの記録媒体には、船体に固定されたタイプと、万が一の沈没時に浮揚するタイプの2種類があります。浮揚タイプには、探索を容易にするための水中ビーコンや無線発信装置が搭載されています。小型船向けには、低コストで導入可能な簡易型VDR（S-VDR）も存在します。

記録される情報

VDRによって記録される情報は以下の通りです。

GNSS機器による日付、時刻、位置情報
船速
風速計と風向計の情報
ジャイロコンパスによる方位
エコーサウンダーによる水深
レーダー情報（搭載されていない場合はAIS情報）
ECDIS（電子海図表示システム）のスクリーンキャプチャと使用海図リスト
船橋での音声
VHF無線通信
IMO（国際海事機関）で搭載が義務付けられている各種警報
船体に取り付けられたドアの開閉状態
水密扉と防火扉の状態
船体応力（加速度と応力）
舵の指示状態と実際の方向
エンジン/プロペラの指示状態と実際の状態
サイドスラスターの指示状態、方向、推進量または回転数

これらの情報のうち、太字で示したものは、利用可能な場合にのみ記録されます。

まとめ

VDRは、船舶の安全航行と事故原因究明に欠かせない重要な装置です。記録される様々なデータは、事故調査の効率化だけでなく、将来の事故防止にも役立ちます。船舶の安全運航を支える上で、VDRの役割はますます重要になっています。

関連情報

非常用位置指示無線標識装置（E-PIRB）
水中ロケータービーコン
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