花井お梅

花井お梅：美貌の芸妓、波乱の生涯

花井お梅（はない おうめ、1863年 - 1916年）は、幕末から大正時代にかけて生きた女性です。彼女は芸妓として名を馳せましたが、殺人事件を起こしたことで、その名は広く知られることとなりました。

生い立ちと芸妓としての生活

お梅は、佐倉藩の下級武士の娘として生まれました。幼くして養女に出され、15歳で柳橋の芸妓・小秀となりました。その後、新橋に移り『秀吉』と名乗り、豊臣秀吉のような成功を夢見ていたと言われています。一時期は寄席で噺家をしていたこともありました。

お梅は美貌と気っ風の良さで人気を集めましたが、勝ち気で酒癖が悪く、感情の起伏が激しい一面も持っていました。ドイツ人医師ベルツは、お梅のヒステリックな性格を見て「人殺しでもしかねない女だ」と評したと言われています。この話は事件後、ベルツが人相見ができると噂されるほど広まりました。

殺人事件

お梅は、第百三十三国立銀行の頭取の世話を受けながら、四代目沢村源之助に惚れ込み、金銭を貢いでいました。しかし、源之助との間でトラブルが発生し、その件で付き人を解雇された八杉峰三郎を、自分の箱屋として雇いました。

1887年、お梅は頭取から浜町に待合『酔月』を与えられ、そこの女主人となります。しかし、その翌月、浜町河岸でお梅は峰三郎を刺殺してしまいます。動機については諸説あり、「ほんの弾み」「峰三郎の陰口への腹立ち」「峰三郎に横恋慕される鬱陶しさ、待合を乗っ取られるのではないかという疑心」などが挙げられています。

お梅の起こした殺人事件は、美人芸妓によるものとして新聞で大きく報道され、彼女は『毒婦』として世間から非難されました。峰三郎の亡骸は、麻布長谷寺に葬られた後、浅草本龍寺に改葬され、歌舞伎役者や芸妓などが集まり、盛大な法要が営まれました。

服役とその後

大岡育造らの弁護により、お梅は無期徒刑となりました。服役中の彼女の様子は、新聞記事になることもありました。15年後の1903年、お梅は釈放されます。出所時には多くの野次馬が駆けつけましたが、彼女は人目を避けて刑務所の裏口から出ました。

釈放後、お梅は浅草千束町に汁粉屋、神田連雀町に洋食屋を開業しましたが、野次馬目的の客が去ると店を閉じ、牛込岩戸町で小間物屋を始めますが、これも長続きしませんでした。1905年からは、自らの事件を題材とした芝居の旅回りを始めます。

最期

1916年、お梅は新橋の芸妓に戻り、秀之助と名乗ります。しかし、その年の12月13日、肺炎のため亡くなりました。かつて源之助を巡って恋敵だった芸妓・喜代次が、最期を看取ったと言われています。

お梅の墓は、西麻布の長谷寺にあります。墓石には戒名が刻まれ、傍らには流行歌『明治一代女』を作詞した藤田まさとによる歌碑が建てられています。

花井お梅を題材とした作品

花井お梅の波乱に満ちた生涯は、多くの作品に影響を与えました。

評伝
田村栄太郎『妖婦列伝』
朝倉喬司 『毒婦伝 高橋お伝、花井お梅、阿部定』
音曲
五代目富士松加賀太夫：『梅雨衣酔月情話』
藤田まさと作詞、大村能章作曲：『明治一代女』
演劇
秋葉亭霜楓：『花井於梅酔月奇聞』
河竹黙阿弥：『月梅薫朧夜』
伊原青々園：『仮名屋小梅』
川口松太郎：『明治一代女』
北条秀司：『振袖紅梅』
映画
川口吉太郎監督：『花井お梅』
吉野二郎監督：『花井お梅』
丘虹二監督：『花井お梅』
蔦見丈夫監督：『仮名屋小梅』
田坂具隆監督：『明治一代女』
伊藤大輔監督：『明治一代女』
衣笠貞之助監督：『情炎』

花井お梅の生涯は、美貌と才能を持ちながらも、激情に翻弄された一人の女性の悲劇として、今もなお人々の心を捉えて離しません。

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