吉野二郎

吉野二郎：黎明期の日本映画を彩った多才な映画人

吉野二郎（よしの じろう）は、明治14年（1881年）8月10日に東京で生まれ、昭和39年（1964年）12月11日にその生涯を閉じた日本の映画監督、俳優です。本名を関輪清といい、雅号を半狂と称しました。新派劇の俳優としてキャリアをスタートさせた吉野は、その後、映画の世界へと足を踏み入れ、その才能を開花させました。

初期の映画界での活躍

1910年（明治43年）、吉沢商店に入社した吉野は、当初は俳優として活動していましたが、間もなく映画監督としての才能を発揮し始めます。最初に監督としてクレジットされたのは、福宝堂での泉鏡花原作の『通夜物語』（1912年）でした。その後、福宝堂が日活に統合されると、吉野は日活での映画製作に携わります。しかし、日活日暮里撮影所閉鎖後、東洋商会が同撮影所を引き継ぎ、吉野は引き続き映画製作を行いました。

1914年（大正3年）には、天然色活動写真（天活）の設立に際し、日暮里撮影所の所長に抜擢され、カラー映画製作に挑戦しました。技術部長の枝正義郎とのコンビで、『義経千本桜』など、数々の作品を制作し、1919年（大正8年）末までの5年間で約90本もの映画を世に送り出しました。

国際活映、松竹キネマでの活動

1919年、天活が国際活映（国活）に吸収合併されると、吉野は国活で引き続き枝正とのコンビで映画を製作します。国活では、設立第一作『忍術四天王』を含む30本以上の作品を制作しました。その後、1921年（大正10年）には、松竹キネマに入社し、蒲田撮影所で沢村四郎五郎作品を連打しました。関東大震災で蒲田撮影所が京都に移転した際には、一時的に下加茂で演出を行い、蒲田撮影所の復旧に伴い戻りました。

マキノ・プロダクション、独立、そして晩年

1927年（昭和2年）末、吉野はマキノ省三率いるマキノ・プロダクションに引き抜かれ、名古屋撮影所や御室撮影所で時代劇を量産しました。1931年（昭和6年）に独立し、自らツバメ映画社を設立し、『少年馬子』などの作品を製作しました。その後も、複数の映画会社で作品を監督し、1932年には沖縄とハワイでロケを行った怪談映画『執念の毒蛇』を監督するなど、精力的に活動を続けました。

1935年（昭和10年）には、日活・入江ぷろだくしょん提携作品『明治一代女』に時代考証監督として参加し、初めてのトーキー作品に携わりました。

戦後の1952年（昭和27年）には、マツダ映画社の顧問を務めました。

1964年（昭和39年）12月11日、吉野二郎は老衰のため、83歳で生涯を閉じました。

人物像とエピソード

吉野二郎は、日本映画の黎明期から昭和初期にかけての無声映画時代に、その才能を遺憾なく発揮しました。わずか20年ほどのキャリアで300本を超える作品を世に送り出したことは、彼の才能と情熱の証と言えるでしょう。

牧野省三が尾上松之助主演で忍術特撮映画を連作したのに対抗し、沢村四郎五郎を主演に立てて忍術特撮映画を競作しました。また、マキノ雅弘と並ぶ「早撮りの名手」としても知られ、「一日に二本」の映画製作記録を持っています。富士山麓でのロケ中、午前中に一本撮り終えた後、その日の好天に恵まれ、もう一本即興で撮り上げたという逸話は、彼の即興性と創造性を物語っています。

晩年、稲垣浩に「監督よりも、実は女形になりたかった」と語ったというエピソードは、彼の多才さと、映画への情熱の裏に隠された意外な一面を垣間見せます。しかし、その葬儀は映画関係者の姿もまばらで、寂しいものだったそうです。

主なフィルモグラフィー

通夜物語（1912年）- 福宝堂、監督デビュー作
義経千本桜（1914年）- 天活（キネマカラー）
不如帰（1915年）- 天活（白黒）
五郎正宗孝子伝（1915年）- 天活（プリント現存）
日蓮上人 龍乃口法難（1921年）- 国活巣鴨（プリント現存、ロシアで発掘）
花井お梅（1926年）- 松竹蒲田撮影所
怪談 狐と狸（1929年）- マキノ御室（プリント現存）
少年馬子（1931年）- ツバメ映画社（プリント現存）

ツバメ映画社

1931年に吉野二郎が設立した映画会社。教育、宣伝、家庭映画などの事業を行う会社であったことが当時の資料から読み取れます。

吉野二郎は、その生涯を映画に捧げ、日本の映画史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、初期の日本映画の歴史を語る上で、欠かせない存在となっています。

もう一度検索