芹沢博文

芹沢博文:天才棋士の光と影



芹沢博文(1936年10月23日-1987年12月9日)は、日本の将棋界に名を刻んだ稀代の棋士です。その名は、卓越した棋力だけでなく、奔放な言動と文筆家・タレントとしての活動でも知られています。小学校4年生で将棋を始め、わずか2年後には木村義雄十四世名人に快勝するなど、早くからその才能を周囲に認められました。

14歳でプロ入りを目指し、19歳で四段に昇段。その後、順位戦でめきめきと頭角を現し、24歳という若さでA級八段に昇級。このスピード昇級は、加藤一二三中原誠谷川浩司といった名人経験者らごく僅かしか成し遂げていない偉業です。この頃、芹沢は『若き天才』『俊英』として称賛されました。

B級1組では11勝1敗という圧倒的な成績でA級に昇級したものの、その後は思うような成績を残せず、わずか2年でA級から陥落。本人は「勝てると思っていたから、その気にならず負けた」と語っています。以後、B級1組を長く維持しながらも、何度かA級復帰のチャンスを掴み損ねます。中原誠大内延介との直接対決で惜敗した経験が、その苦悩を物語っています。

30代以降は棋士としての活躍は影を潜めましたが、一方で、将棋イベントの企画立案や、タレント、文筆家として才能を開花させました。「将棋まつり」の企画や、「将棋の日」イベントの成功は、彼のアイデアマンとしての側面を示しています。山口瞳との対局を収録した『血涙十番勝負』への参加や、『日曜天国』司会、『アイ・アイゲーム』解答者としてのテレビ出演は、現代でいう「文化人タレント」の先駆けと言えるでしょう。俳優として映画に出演した経験もあります。

観戦記では「鴨」というペンネームを使用し、エッセイストとしても多くの著作を残しました。その文章は歯切れがよく、大衆的な人気を博しましたが、同時に棋界内外で多くのトラブルを引き起こしました。大山康晴十五世名人らとの確執や、大橋巨泉への痛烈な批判、山口瞳との絶縁など、その言動は常に物議を醸しました。1982年の「対局全敗宣言」は、プロ棋士の待遇や競争原理を問う提言でしたが、棋士会に波紋を広げました。

芹沢の性格は、傲岸不遜でありながらも、若手の育成に熱心な一面も持ち合わせていました。中原誠米長邦雄といった名棋士は、芹沢から指導を受け、その後の成長に大きな影響を与えられたと語っています。しかし、晩年はに溺れ、健康を害するようになり、1987年、51歳で肝不全のため急逝しました。その死は、「時間をかけた緩やかな自殺」と評されるほどでした。

芹沢博文は、天才的な才能と奔放な生き様で、将棋界に大きな足跡を残した棋士でした。彼の生涯は、成功と挫折、才能と苦悩が複雑に絡み合った、ドラマチックな物語です。その波乱万丈の人生は、今もなお、多くの人々に語り継がれています。彼の功績は、棋士としての活躍だけにとどまらず、将棋界の活性化に貢献した企画力、そして優れた文章力による著作の数々にも見出すことができるでしょう。 彼の遺した言葉や作品は、現代においても、将棋ファンや文化人たちに深く影響を与え続けています。また、彼の複雑な人間性と、その生き様は、私たちに多くの示唆を与えてくれるのではないでしょうか。

もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。