苗木藩の廃仏毀釈

苗木藩の廃仏毀釈

苗木藩の廃仏毀釈は、慶応4年（1868年）に始まり、明治3年から4年（1870年～1871年）にかけて実行された、現在の岐阜県中津川市苗木を本拠地とした苗木藩による仏教排斥政策です。廃藩置県後の明治4年11月22日（1872年1月2日）に、苗木県が岐阜県に吸収され消滅したことで、この廃仏毀釈は終結しました。

版籍奉還と廃仏毀釈への流れ

明治2年（1869年）に版籍奉還が勅許され、苗木藩主の遠山友禄は知藩事となりました。幕末期、苗木藩内では平田派国学が広まっており、藩士の曽我祐甲は平田塾で学び、帰藩後は藩校の創設に尽力しました。また、藩の長老であった青山景通は平田篤胤の高弟であり、その子である青山直通も皇学に傾倒していました。明治2年10月、青山直通が24歳で大参事の要職に就任したことで、苗木藩では明治維新直後から平田国学の影響を受けた藩政改革が推し進められ、青山景通・直通親子が中心となり、領内で徹底的な廃仏毀釈が実行されることとなりました。

明治3年（1870年）8月7日、苗木藩庁は弁官に対して「神葬祭願」を進達し、即日付で許可を得ました。これが苗木藩の廃仏毀釈の始まりです。

神仏分離令と苗木藩の対応

慶応4年（1868年）3月、政府は「神仏分離令」を布告し、仏像を神体とする神社や、仏具を備えている神社の改めるよう指示しました。これを受け、苗木藩では、苗木城の守護神として祀られてきた「龍王権現宮」を「高森神社」と改称し、本尊の大日如来像や不動明王などを取り払いました。また、領内にあった天台宗や真言宗の修験道の寺院も、神仏混淆の寺として廃寺となりました。

廃寺と僧侶の還俗

同年9月3日、苗木藩大参事の青山直通は、領内の全寺院の住職を呼び出し、廃寺と還俗を命じました。還俗する者には寺の資産が与えられ、苗字帯刀が許されました。住職たちは協議の結果還俗を受け入れましたが、雲林寺の住職であった剛宗宗戴のみは還俗を拒否しました。最終的に剛宗宗戴は、黄金300両と位牌などを受け取り、苗木藩の廃仏毀釈が及ばなかった法界寺に移りました。同年9月27日、苗木藩庁は支配地内の15か寺の廃寺と、その僧侶の還俗を弁官に進達し、苗木領内のすべての寺院は取り壊され廃寺となりました。

廃寺となった主な寺院

恵那郡
苗木: 雲林寺、仏好寺
福岡村: 片岡寺
高山村: 岩松寺
坂下村: 長昌寺
蛭川村: 寶林寺
中野方村: 心観寺
姫栗村: 長増寺
加茂郡
河合村: 龍現寺
飯地村: 洞泉寺
黒川村: 正法寺
赤河村: 昌寿寺
神土村: 常楽寺
犬地村: 積善寺
切井村: 龍気寺

実際には、上記の寺院以外にも、苗木雲林寺塔頭の正岳院と壽昌院、加茂郡大沢村の蟠龍寺も廃寺となっています。

廃仏毀釈に対する抗議

廃仏毀釈に対し、寺院側からは強い抗議の声が上がりました。加茂郡久田見村の法誓寺は本山を通じて藩庁に抗議しましたが、聞き入れられませんでした。真宗大谷派の本山である東本願寺も、法誓寺の訴えを受けて中御門大納言に嘆願しましたが、苗木藩からの反応はありませんでした。

神葬改宗と仏像の処分

平田門人たちは神葬改宗を積極的に進めました。青山景通が率先して神葬祭を願い出た後、多くの人々が改宗しました。明治3年（1870年）7月には、藩庁が士族に神葬祭を勧め、その後、知藩事自身も神葬改宗を願い出ました。これにより、苗木藩内では急速に神葬祭が広まりました。同年8月には、辻堂の破壊や、仏名や経典が彫られた石碑の埋没が命じられました。

また、仏像は焼却または埋められることになりました。坂下村の長昌寺では、村人総出で寺を壊し仏像を焼いたとされていますが、実際には、仏像は隠匿され、後に寺が再建された際に安置されました。

法名の俗名への変更と位牌の廃棄

寺院の取り壊し、仏像の破壊、僧侶の還俗に続き、墓石に刻まれた法名が俗名に変更され、各家庭の位牌も廃棄されました。

御霊様の祭祀と仏壇の焼却

仏教信仰を奪われた領民の中には、仏像を密かに隠し持ったり、他藩の知人に仏壇を預けたりする者もいました。一方、神道に改宗した人々は、各家の神棚に先祖の神霊を祀り、「御霊様」として祭祀を執り行うようになりました。

版籍奉還後の明治3年10月、知藩事の遠山友禄は、廃仏毀釈の状況を視察するため領内を巡回し、仏壇を所持していた庄屋の家で仏壇を焼却しました。遠山知藩事は、その月中に仏壇を処分しない者は役人を差し向けて焼き払うとしました。

廃仏毀釈後の苗木藩領の様子

苗木藩に隣接する尾張藩領の付知村では、廃仏毀釈は行われませんでした。付知村の宗敦寺住持の沙門阪上宗詮は、著書『忘来時略録』の中で、廃仏毀釈後の苗木藩領の様子を記しています。そこには、道端の石仏や供養塔が倒され、橋に使われている様子や、僧侶が村人から罵倒される様子が描かれています。また、寺院が閉鎖され、住職が還俗を勧められている様子や、仏像を隠して密かに信仰を守る人々の姿も記録されています。

結論

苗木藩の廃仏毀釈は、明治維新直後の藩政改革の一環として、平田国学の影響下で強行された徹底的な仏教排斥政策でした。寺院の破壊、仏像の焼却、僧侶の還俗、神道への改宗の強制など、領民の信仰や生活に大きな影響を与えました。この政策は、当時の宗教観や政治情勢を反映しており、日本の近代化における重要な出来事の一つと言えるでしょう。

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