若い狼

若き日の葛藤と抗争の狭間――恩地日出夫監督デビュー作『若い狼』

1961年、東宝より公開された恩地日出夫監督デビュー作『若い狼』。モノクロームの東宝スコープ作品で、上映時間は83分。少年院を出所した青年、川本信夫の東京での生活と抗争に巻き込まれていく姿が描かれる青春映画です。

主人公の川本信夫を演じるのは夏木陽介。出所後、再会した幼馴染の道子（星由里子）は、信夫が想像もつかないほど変わってしまっていました。更生を誓う信夫ですが、複雑な社会情勢や自身の境遇に翻弄され、やがて暴力団・白狼会に身を投じていきます。白狼会と対立する柏会との抗争に巻き込まれ、信夫の運命は混沌としていきます。

この作品は、戦後日本の社会の闇と若者たちの葛藤をリアルに描いたと評価されています。監督の恩地日出夫は、東宝入社後、多くのベテラン監督の下で助監督を務めました。特に、堀川弘通監督の下での経験が大きく、堀川監督は助監督の意見を積極的に取り入れる人物であったことから、恩地監督も助監督時代から積極的に作品作りに参加していたようです。しかし、彼のデビュー作である『若い狼』の編集段階では、堀川監督から多くの修正指示があったとも伝えられています。

キャストには、夏木陽介、星由里子をはじめ、西村晃、田中邦衛、菅井きん、鈴木和夫、飯田紀美夫、中丸忠雄、小栗一也、一の宮あつ子、織田政雄、佐田豊、中村美代子、小林政忠、三田照子、松村達雄など、実力派俳優が多数出演しています。それぞれの俳優が、社会の底辺で生きる人々を生き生きと演じ、作品にリアリティを与えています。

脚本と監督を務めた恩地日出夫は、この作品で自身の監督としての才能を遺憾なく発揮しました。モノクロームながらも、時代背景や登場人物たちの感情を巧みに表現し、観る者の心を揺さぶる力強い作品に仕上がっています。また、撮影は逢沢譲、音楽は間宮芳生、美術は竹中和雄など、スタッフも一流のメンバーが名を連ねています。

『若い狼』は、単なる抗争映画ではなく、社会の矛盾や人間の弱さ、そして若者の葛藤を深く描いた作品です。若き日の葛藤と抗争の狭間で揺れ動く主人公の姿は、現代においても多くの共感を呼ぶことでしょう。1960年代の日本の社会状況を知る上でも貴重な資料と言えるでしょう。 この映画は、国立映画アーカイブや東宝映画資料室で閲覧可能です。

【スタッフ】
製作：金子正且
脚本・監督：恩地日出夫
撮影：逢沢譲
音楽：間宮芳生
美術：竹中和雄
録音：斎藤昭
整音：宮崎正信
照明：森弘充
監督助手：森谷司郎

【参考】
友の会機関紙「東宝映画」1961年5月号

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