一の宮あつ子

一の宮あつ子：日本の銀幕と舞台を彩った名バイプレーヤー

一の宮あつ子（本名：吉田あつ）は、1913年12月29日、東京府東京市神田区に生まれました。生家は江戸時代から続く老舗の甘味商を営んでいました。幼少期を本郷区湯島で過ごし、三輪田高等女学校を卒業。在学中は、陸上競技に打ち込み、人見絹枝や加賀一郎をコーチに全国大会へ出場するなど、スポーツにも秀でていました。

1932年、鈴木傳明らの不二[[映画社]]の映画に吹き替え走者として出演したことがきっかけで、女優として同社に入社。翌1933年、『銀嶺富士に甦える』で映画デビューを果たします。この作品で鈴木傳明から「一の宮敦子」という芸名を授かりました。

不二[[映画社]]解散後、1934年に東京宝塚劇場の専属俳優募集に合格。約1300名という応募者の中から選ばれ、研究生として舞台での活動をスタートさせます。その後、太秦発声映画や東宝映画などにも出演。脇役ながらも、持ち前の演技力で存在感を示していきました。

戦争激化により劇団活動が困難になると、東宝映画撮影所に移籍。戦後は東宝争議の影響で新[[東宝]]へ移籍しますが、数々の作品で脇役を演じ続けました。山本嘉次郎監督の『春の戯れ』での狂女役や、成瀬巳喜男監督の『おかあさん』での印象的な演技は、彼女のバイプレーヤーとしての地位を確立する上で大きな役割を果たしました。

1955年に東宝へ復帰すると、『社長シリーズ』や『サザエさん』シリーズなどに常連出演。堀川弘通監督の『裸の大将』や松山善三監督の『名もなく貧しく美しく』といった名作にも出演し、食料品店のおかみや女中、母親役など幅広い役柄を演じ分け、その存在感を示しました。

1964年からは東宝演劇部に所属し、舞台でも活躍。山田五十鈴主演の『あかさたな』、芸術座の『春の雪』、長谷川一夫の東宝歌舞伎など、数々の舞台作品に出演しました。テレビドラマにも草創期から出演しており、東芝日曜劇場の人気シリーズ『女と味噌汁』では芸者の金とき役を10年にわたって演じ、視聴者から愛されるキャラクターを確立しました。

その演技力は高く評価され、1969年には芸術祭優秀賞（『春の雪』）、1985年には菊田一夫演劇賞特別賞を受賞。1989年には勲四等瑞宝章を受章するなど、数々の栄誉に輝きました。

1991年2月16日、肝不全のため77歳で逝去。日本の映画史、演劇史にその名を刻んだ、類まれなバイプレーヤーでした。彼女の演技は、多くの作品に深みと奥行きを与え、今もなお人々の記憶に鮮やかに残っています。

出演作品（抜粋）

映画

銀嶺富士に甦える (1933)
新柳桜 (1938)
清水の次郎長 (1938)
春の戯れ (1949)
おかあさん (1952)
社長シリーズ (1956～)
サザエさんシリーズ (1956～)
名もなく貧しく美しく (1961)
それから (1985)

テレビドラマ

女と味噌汁 (1969～1979)
夫婦百景 (1961～1963)
東芝日曜劇場 (1961～1975)
太陽にほえろ！(1974)

舞台

春の雪 (1969)
あかさたな (1967)
三婆 (1973、1976)
* マイ・フェア・レディ (1990)

これらの作品は、一の宮あつ子の幅広い演技力と、作品への貢献を示すものです。彼女が残した輝かしい功績は、これからも日本の演劇界に大きな影響を与え続けるでしょう。

もう一度検索