英国海外航空781便墜落事故

英国海外航空781便墜落事故

1954年1月10日、英国海外航空（BOAC）781便は、イタリアのエルバ島沖で悲劇的な墜落事故に見舞われました。この事故は、当時最新鋭のジェット旅客機であったデ・ハビランド コメットの初期型機が空中分解したことによるもので、世界初のジェット旅客機の安全性に対する深刻な疑問を投げかける出来事となりました。

事故の概要

シンガポールからロンドンへ向かっていた781便（機体記号G-ALYP、愛称ヨーク・ピーター）は、ローマのチャンピーノ空港を離陸後、順調に飛行を続けていました。乗員6名と乗客29名を乗せたこの便は、当時最新技術の粋を集めたコメットの3号機として注目されていました。

離陸から約20分後、高度約8,000メートルを巡航中、781便は突然消息を絶ちました。エルバ島付近の海上で目撃された爆発と、海面に散乱する残骸から、機体が空中分解したことが明らかになりました。乗員乗客合わせて35名全員が死亡するという、痛ましい結果となりました。

この事故発生時、781便の直前にローマを離陸した同僚機との無線交信の最中に、機長のメッセージが途絶えたことから、機体に深刻なトラブルが発生したことが示唆されました。エルバ島の漁師たちが事故現場へ急行しましたが、生存者は発見されませんでした。この事故の犠牲者の中には、著名なジャーナリスト、チェスター・ウィルモットも含まれていました。

事故原因の究明

事故原因の特定のため、大規模な残骸回収作戦「エルバ島作戦」が展開されました。英国海軍によって回収された残骸は、英国王立航空研究所（RAE）で入念な復元作業が行われました。また、機体の構造疲労を検証するため、巨大な水槽を用いた加圧実験が行われました。コメットの胴体を水槽に沈めて加圧することで、実際の飛行中の与圧状態を再現し、構造的な弱点を探る試みでした。

これらの調査の結果、コメットの機体設計に根本的な欠陥があったことが判明しました。特に、機体前部胴体天井外壁に設置されていたADF（自動方向探知器）アンテナの穴のフレーム部分に亀裂が入りやすく、それが機体全体の破壊を招いたことが結論づけられました。この亀裂は、与圧された胴体の繰り返し変形による金属疲労が原因でした。この発見は、当時の航空工学では予測されていなかったものでした。

コメット1型機は、この事故を受けて永久に飛行停止措置が取られました。就航からわずか2年余りで退役を余儀なくされるという、大きな代償を払うこととなりました。

事故の教訓と影響

781便の墜落事故は、航空機設計における金属疲労の概念の重要性を痛感させるものでした。それまで経験的にしか理解されていなかった金属疲労が、航空機の構造破壊につながる可能性を具体的に示したのです。この事故を契機に、航空機メーカーは機体の耐久性向上に力を注ぐようになりました。また、事故原因究明のための調査手法が確立され、航空事故の未然防止に向けた取り組みが強化されることになりました。

その後のコメット

コメットは、事故原因となった設計上の欠陥を改修し、後に2型、3型が製造されました。しかし、初期の事故のイメージが払拭されることはなく、商業的な成功を収めることはできませんでした。しかし、コメットがもたらした教訓は、現代の航空機設計の基礎を形作っており、航空史における重要な教訓として語り継がれています。

参考文献

鳥養鶴雄 『大空への挑戦 プロペラ機編』（グランプリ出版 2002年）
デイヴィッド・オーウェン、青木謙知監訳 『墜落事故』（原書房 2003年）
藤田日出男 『あの航空機事故はこうして起きた』（新潮社 2005年）
ニコラス・フェイス、小路浩史訳 『ブラック・ボックス』（原書房 1998年）
青木謙知 『航空事故の真実』（イカロス出版 2005年）
中尾政之 『失敗百選』（森北出版株式会社　2005年）

関連項目

コメット連続墜落事故
航空事故
金属疲労
疲労 (材料)
英国海外航空783便墜落事故
南アフリカ航空201便墜落事故
キプロス航空284便爆破事件

外部リンク

ジェット旅客機コメットの空中分解 - 失敗知識データベース
外山智士ホームページ
コメットの航空事故一覧（英語）
* Marc Schaeffer's Comet Website - ウェイバックマシン

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