英国海外航空783便墜落事故

英国海外航空783便墜落事故：黎明期のジェット旅客機事故

1953年5月2日、英国海外航空（BOAC）783便は、シンガポール発ロンドン行きのフライト中、インドのカルカッタを離陸直後に墜落しました。この事故は、商業ジェット旅客機による世界初の全損死亡事故として、航空史にその名を刻んでいます。

事故の概要

事故機は、デ・ハビランド コメット Mk.I（機体記号G-ALYV）という、当時最新鋭のジェット旅客機でした。カルカッタのダムダム空港を離陸後、デリーへ向けて上昇中、高度約2,133メートル付近で激しい雷雲に遭遇しました。この時、機体は空中分解を起こし、カルカッタ北西約38キロメートルの地点に墜落。乗員6名、乗客37名、計43名全員が犠牲となるという痛ましい結果となりました。

事故原因の究明

インド政府の事故調査によると、事故機は上昇中に雷雲の中でダウン・ドラフト（下降気流）に巻き込まれました。パイロットは、この急激な下降を食い止めようと機体を立て直そうとしましたが、その操作が過剰であったとされています。特に、コメットの操縦系統は油圧式で、従来のレシプロ機とは操作感が異なっていました。パイロットは、人力操舵の感覚で操作したため、機体に設計限度を超える大きな負荷がかかってしまったと考えられています。

その結果、水平尾翼（エレベーター）と主翼のエンジン外側部分が脱落し、さらに主翼の破片が垂直尾翼を損傷させました。主翼からは激しい出火が発生し、機体は空中分解に至ったと結論付けられました。つまり、悪天候が事故の直接的な原因であり、パイロットの過剰な操縦が、機体の破壊を招く一因となったと結論づけられました。

事故原因に関する諸説

事故原因については、公式な調査報告以外にも、いくつかの説が提唱されています。その一つは、機体の燃料タンクに落雷が発生し、気化した燃料に高電圧電流が流れて空中爆発したとする説です。しかし、この説を裏付ける確かな証拠は見つかっていません。

また、事故機となったコメットは、後に機体構造に未知の欠陥があったことが判明し、それが原因で巡航中に空中分解する事故も発生しています。そのため、この事故も構造的な欠陥によって引き起こされた可能性も指摘されています。しかし、この事故に関しては、機体の構造的な欠陥が原因であるという決定的な証拠も発見されていません。

事故から得られた教訓

英国海外航空783便墜落事故は、初期のジェット旅客機が抱えていた課題を浮き彫りにしました。特に、ジェット機特有の操縦特性、悪天候への対応、そして機体の構造的な安全性など、多くの教訓を残しました。この事故を契機に、航空業界では、パイロット訓練の強化、機体設計の見直し、そしてより厳格な安全基準の策定が進められました。

参考文献

青木謙知『航空事故の真実 事故調査報告書が語る』イカロス出版〈のりもの選書〉、2005年7月。ISBN 4-87149-709-7。
藤田日出男『あの航空機事故はこうして起きた』新潮社〈新潮選書〉、2005年9月。ISBN 4-10-603556-1。

関連項目

コメット連続墜落事故
乱気流
* 航空事故

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