英雄記

『英雄記』は、後漢末期の動乱期に活躍した群雄たちの事績を記録した中国の歴史書です。著者は王粲らとされています。

残念ながら原本は早くに散逸してしまいましたが、明代になって王世貞によって、『三国志』の注釈などに引用された逸文を集め、再編集した輯本が作られました。

成立年代は明確にはわかっていません。『英雄記』の中に記録された事柄で年代が判明しているものの中で、最も新しい記事は建安13年（208年）のものです。その内容は、曹操が赤壁の戦いで筏を組んで長江を渡ろうとした際、周瑜の火攻めに遭ったという記述です。このことから、『英雄記』は建安13年以降、王粲が亡くなる建安22年（217年）までの間に成立した可能性があると考えられています。

『隋書』「経籍志」には「漢末英雄記八卷王粲撰、殘缺。梁有十卷。」との記述があり、『旧唐書』「経籍志」には「漢末英雄記十巻王粲等撰。」という記述が見られます。この『漢末英雄記』が、現在知られている『英雄記』のことであると考えられています。

「漢末」という語について、『四庫全書総目提要』では以下のような考察がなされています。「王粲は後漢の建安年間に亡くなっている。後漢の衰退は明らかであったものの、まだ帝位は魏に移っていなかった。そのため、書物に『漢末』などと名付けるはずがなく、後世の人間が付け加えた題名である可能性もある。しかしながら、王粲が『従軍詩』の中で曹操を『聖君』と称えていることを考えると、魏を新たな王朝として認識していたとも考えられ、この書名も不自然ではないかもしれない」。

また、『続漢書』「郡国志」会稽郡の条の劉昭注に『英雄交争記』という書物が引用されていますが、この書物も『英雄記』と同一のものである可能性があります。

このように、『英雄記』は後漢末の歴史を研究する上で貴重な資料であり、その成立や書名については様々な考察がなされています。

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