范曄

范曄（はん よう）：波乱に満ちた生涯と『後[[漢書]]』

范曄（はん よう、398年 - 446年）は、南朝宋代に生きた政治家、文学者、そして歴史家であり、後世に大きな影響を与えた歴史書『後[[漢書]]』の編纂者として知られています。彼の生涯は、その才能と並外れた行動、そして悲劇的な最期によって彩られています。

名門の出自と幼少期

范曄は、東晋の隆安2年（398年）に、名門である順陽范氏の一族に生まれました。彼の先祖は南陽郡順陽県（現在の河南省南陽市淅川県）の出身ですが、范曄自身は会稽郡山陰県（現在の浙江省紹興市柯橋区）で誕生しました。曾祖父の范汪は東晋の武将であり、祖父の范寧は著名な学者でした。父の范泰もまた、南朝宋で重要な役職を歴任しました。

幼少期の范曄は、「磚（れんが）」という変わった幼名で呼ばれていました。これは、彼が生まれた際に額をレンガにぶつけて怪我をしたことに由来します。幼い頃から学問に励み、経書や史書に精通し、文才にも恵まれていたと伝えられています。

政治家としてのキャリア

南朝宋が成立すると、范曄は武帝の子である彭城王劉義康の側近となり、様々な官職を歴任しました。尚書外兵郎、荊州別駕従事史、秘書丞など、重要な役職を経験し、その才能を発揮しました。しかし、范曄はしばしば奇行を起こし、周囲を驚かせることがありました。例えば、北征の命令を足の病を理由に拒否したり、劉義康の母の葬儀で宴会を開いたりと、その行動は時に物議を醸しました。これらの奇行が原因で、左遷されることもありましたが、その度に彼は自身の才能を磨き、歴史書編纂への情熱を燃やしました。

『後[[漢書]]』編纂への情熱

左遷先の宣城で、范曄は『後[[漢書]]』の編纂を開始します。当時、複数の後漢に関する歴史書が存在していましたが、范曄はそれらを参考にしながら、独自の解釈を加え、新たな歴史書を作り上げました。彼の『後[[漢書]]』は、先行の書物を整理統合しただけでなく、新たな視点や解釈を取り入れることで、後世に大きな影響を与えることになります。

謀反事件と悲劇的な最期

范曄の人生は、順風満帆とはいきませんでした。当時の有力者であった劉義康の側近が、反乱を企てた際、范曄もその計画に巻き込まれてしまいます。謀反計画が事前に発覚し、范曄は他の関係者とともに処刑され、その生涯を終えました。

無神論者としての評価

現代中国の学界では、范曄は仏教批判者であり、無神論者として評価されています。彼は『後[[漢書]]』の中で、仏教の教えを厳しく批判し、特に輪廻転生や因果応報の概念に反対しました。また、天命論を否定し、古代の予言書や陰陽の禁忌についても批判的な見解を示しました。

ただし、これらの評価は中国共産党の唯物史観に基づくものであり、日本の学界では、天命論に反対した点以外は必ずしも是認されていません。

著作と後世への影響

范曄の文章は、その博識さと優れた筆力によって高く評価されています。毛沢東も「読む価値がある」と称賛しました。彼の代表作である『後[[漢書]]』は、後漢時代の歴史を記した重要な史料として、後世に大きな影響を与えました。

その他の著作としては、『双鶴詩序』、『楽游應詔詩』などがありましたが、現存するものは少ないです。

范曄は、その波乱に満ちた生涯と、歴史書『後[[漢書]]』の編纂によって、後世にその名を残しました。彼の行動は、時に奇矯であり、その生涯は悲劇的な結末を迎えましたが、その才能と情熱は、歴史の中で輝き続けています。

参考資料

『宋書』巻69 列伝第29
吉川忠夫「范曄と『後[[漢書]]』」『読書雑志 : 中国の史書と宗教をめぐる十二章』岩波書店、2010年。
* 吉川忠夫「史家范曄の謀反」『侯景の乱始末記　南朝貴族社会の命運』志学社選書、2019年。

もう一度検索