茨城 (古代山城)

茨城（いばらじょう/いばらき）とは

茨城は、備後国安那郡（現在の広島県東部）に存在したとされる古代山城です。しかし、その正確な場所や築城時期は記録が少なく、謎に包まれています。

記録に残る茨城

茨城に関する唯一の公式記録は、『続日本紀』の元正天皇養老3年（719年）12月の条に見られる「備後国安那郡の茨城、葦田郡の常城を停む」という記述です。この記述から、茨城が719年にはすでに存在し、廃止されたことが分かりますが、それ以上の詳しい情報は残されていません。

茨城の場所を巡る諸説

長らく謎とされてきた茨城の所在地について、いくつかの説が提唱されています。

蔵王山説

1958年に豊元国氏が提唱した蔵王山説は、福山市街地北東に位置する蔵王山（標高225.5m）が茨城の跡地であるとする説です。この説の根拠として、蔵王山南麓に奈良時代の寺院跡（宮の前廃寺跡）が存在すること、周辺に市場があったと考えられること、また、深津港という交通の要衝があったことが挙げられます。さらに、江戸時代の地誌に「蔵王山上に石塁がある」という記述があることも、この説を補強する材料とされています。

しかし、蔵王山では、石塁を含む城の遺構が一切発見されていません。また、蔵王山は『続日本紀』の記述にある安那郡ではなく、深津郡に含まれるという疑問点も指摘されています。ただし、深津郡は養老5年（721年）まで安那郡の一部であったため、矛盾ではないともされています。

北山説

福山市加茂町北山にある「大すき」と呼ばれる大規模な空堀状の溝が茨城の遺構であるとする説です。他の説が文献考察のみであるのに対し、北山には唯一、遺構と呼べるものが存在します。空堀以外に曲輪などの遺構は見つかっていませんが、『続日本紀』の記述にある「停む」を建設中止と解釈すれば、未完の城として説明可能です。また、当地には「芋原（いもばら）」という「いばらき」と似た小字が存在することも、この説を支持する根拠の一つです。

木之上説

福山市神辺町にある木之上城跡が茨城であるとする説です。木之上城跡は戦国時代の山城跡として知られていますが、平安時代の瓦が出土していることや、遺跡の構成要素である方形の広場と通路状の土塁の目的が不明であること、そして、「木之上」という地名が茨城の「城」に通じることなどから、この説が提唱されています。

要害山説

福山市神辺町にある要害山を茨城の跡地とする説です。この説は、郷土史家の高垣敏男氏が、備後国の国府を守護する城として提唱したものです。しかし、要害山には古代山城の痕跡は確認されていません。高垣氏は、国府が当初は神辺にあったと考えており、その説は現在でも一定の支持を得ていますが、発掘調査により、国府は府中市にあったことが確実視されています。

井原説

岡山県井原市に茨城があったとする説です。井原には「イバラ」という地名があること、安那郡と隣接していること、そして「茨八幡宮」という古い神社があることが、この説の根拠となっています。また、井原市には「末国」という小字があり、古代の国境に関わる場所であった可能性も指摘されています。この説では、『続日本紀』の著者が茨城を安那郡にあると誤って記載した可能性も指摘されています。しかし、井原市内では本格的な調査は行われていません。

茨城の謎

茨城は、その所在地だけでなく、築城目的や廃止された理由など、多くの謎に包まれています。それぞれの説には根拠となる要素があるものの、決定的な証拠は見つかっておらず、茨城の存在自体が伝説の域を出ていないのが現状です。今後の調査によって、茨城の謎が解明されることが期待されます。

まとめ

茨城は、古代日本の歴史に埋もれた山城であり、その実態は未だに解明されていません。複数の説が提唱されていますが、いずれも確証に欠け、謎が深まるばかりです。今後の歴史研究の進展によって、茨城の真実が明らかになる日が来るかもしれません。

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