茨城交通茨城線

茨城線（いばらきせん）

茨城線は、現在の茨城交通がかつて運営していた鉄道路線です。茨城県水戸市の赤塚駅を起点とし、東茨城郡桂村（現在の城里町）に位置した御前山駅までの間、全長25.2キロメートルを結んでいました。地元では終着駅の名から「御前山線」とも呼ばれ、また茨城交通に統合される以前の会社名である茨城鉄道に由来する「茨鉄線」という愛称でも長く親しまれました。残念ながら、この路線は1971年2月11日をもって全線が廃止され、その役割を終えました。

終点となった御前山駅は、山自体の麓であり、城里町（開業当時は沢山村）に存在する「御前山」という地名に由来しています。しばしば那珂川を挟んだ対岸の旧御前山村（現在の常陸大宮市）と混同されがちですが、駅名の方が自治体名よりも古い歴史を持っています。

路線データ

この路線は全線単線で運行されており、複線区間は存在しませんでした。軌間は1,067ミリメートル。起点と終点を含めて16の駅が設けられていました。全線非電化でしたが、開業後に一部区間（赤塚駅 - 大学前駅間）で電化が行われ、電車も運転されていました。

歴史

茨城線の建設に向けた動きは早く、1921年には前身となる茨城鉄道に対し鉄道敷設の免許が下付されています。会社が設立されたのは1923年で、当初本社は遠く東京に置かれていましたが、その後茨城県内へと移転しました。路線の建設は段階的に進み、1926年に赤塚駅から石塚駅までの区間が開業。この際、起点が当初計画地から現在の赤塚駅に変更されました。翌1927年には石塚駅から阿波山駅、そして終点となる御前山駅までが開通し、全線開業となりました。

開業後、車両の動力近代化も進められ、1928年頃から瓦斯倫（ガソリン）動力の併用が始まり、1929年には全線での併用が可能となりました。計画されていた御前山駅から先の延伸は実現せず、関連免許は1931年と1935年に失効・取消されています。1944年には県内の交通事業者の統合が進められ、水浜電車や湊鉄道などとともに茨城鉄道は茨城交通の一部となりました。これに伴い、路線の電化も進められ、1944年に赤塚-上水戸間、1945年には上水戸-南袴塚（後の大学前）間が電化されました。

1954年には茨城交通の水浜線との乗り入れ運転が認可され、1956年から開始されました。しかし、時代の流れとともに再び動力の近代化が進められ、1957年には全線が気動車化され、蒸気機関車牽引の列車は見納めとなりました（無煙化）。水浜線乗り入れも、1965年の水浜線一部廃止に伴い電車運転が終了。路線の営業廃止も始まり、1966年には石塚-御前山間が、1968年には大学前-石塚間が廃止され、残る赤塚-大学前間も1971年に廃止されたことで、茨城線は全線の歴史に幕を閉じました。

廃止に際しては、段階廃止の際に謝恩乗車券が発行されることもありましたが、1966年の最初の区間廃止時には特に記念イベントは行われなかったと記録されています。経営面では、1930年度には多額の繰越損金が発生するなど、厳しい時期もありました。

車両

茨城線では様々な種類の車両が活躍しました。初期には日本車輌製造やコッペル製の小型蒸気機関車が使用されました。動力近代化後は気動車が中心となり、小型のケハ2、国鉄から譲り受けたケハ45（元キハ045、廃止後湊線へ転属）、戦災復旧車のケハ300形（301, 302、国鉄キハ42000形改造）、山鹿温泉鉄道向け注文流れのケハ401（有田鉄道キハ250と同型、廃止後湊線へ転属）、元五日市鉄道のケハ502などが運用されました。また、水戸電気鉄道から譲り受け、後に付随客車に改造されたハフ251, 252、ハフ11も存在しました。

ディーゼル機関車としては、新潟鉄工所製のケキ102（軽油機関車の意）が導入され、これは廃止後湊線へ転属、さらに売却され富山県で保管されています。蒸気機関車も時代とともに変遷し、国鉄からの譲渡機（2374、2630とされる記録も）なども使用されました。一部の機関車は他社へ譲渡され、現在も小学校などで保存されているものもあります。

駅と接続

茨城線には赤塚、東石川、西原町、上水戸、曙町、大学前、堀、田野、飯富、藤井、那珂西、石塚、常陸岩船、阿波山、阿野沢、御前山の合計16の駅がありました。主な接続駅としては、起点の赤塚駅で国鉄（現在のJR）常磐線と、上水戸駅で同じ茨城交通の水浜線と連絡していました。また、藤井駅では那珂川砂利合資会社線という貨物軌道との接続もあったとされています。

廃線後の状況

路線が廃止されてから半世紀以上が経過した現在、かつての茨城線のルート全般をたどる公共交通機関はありません。しかし、水戸市街と城里町を結ぶいくつかのバス路線は、部分的に廃線跡に近いルートを走行しています。例えば、水戸駅と御前山を結ぶ路線バスの一部は、上水戸駅から御前山駅の区間でかつての鉄道路線とほぼ同じ経路を辿ります。また、赤塚駅方面からのバス路線には、廃線跡を利用して整備された道路上を走る区間があり、東石川駅の正確な位置にバス停が設けられている場所もあります。

線路跡の多くは、その後、道路や宅地などに姿を変えたため、現地で明確な痕跡を見つけることは容易ではありません。しかし、いくつかの場所には今なお遺構が残されており、那珂西駅のホーム跡や、御前山駅近くの小川に残る橋台などが確認されています（2012年時点の情報）。さらに、間接的な痕跡として、旧石塚駅周辺には「石塚駅前通り」という通称名や「石塚駅前タクシー」という会社名が残されており、旧御前山駅周辺にも「駅前」という地名が現存しています。加えて、路線の境界を示す「茨城交通」や「茨交」と記された境界杭が沿線各地で多数見られることも、かつてここを鉄路が走っていたことを静かに物語っています。

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