荒川第一調節池

埼玉県さいたま市桜区から戸田市にかけて広がる荒川第一調節池（あらかわだいいちちょうせつち）は、荒川が洪水に見舞われた際に下流地域への被害を軽減することを目的として整備された施設です。総貯水容量は約3900万立方メートルに達し、その中心的な役割を担うのが広大な貯水池「彩湖」です。

概要

この調節池は、荒川の中流域下流部から下流域上流部にかけての左岸に位置しています。その範囲は、上流側の羽根倉橋のやや下流から、下流側の幸魂大橋と笹目橋の間にまで及び、区間延長は約8.1キロメートルです。調節池の敷地は、荒川本流とは「囲繞堤（いにょうてい）」と呼ばれる堤防によって、また周囲の市街地などの堤内地とは「周囲堤（しゅういてい）」によって区画され、それぞれから分離されています。

歴史

荒川第一調節池は、1973年に旧建設省（現在の国土交通省）が荒川中流域における治水・利水対策として策定した、五つの調節池群構想の一つとして計画されました。現在までに完成しているのはこの荒川第一調節池のみであり、そのすぐ北側には荒川第二・第三調節池が事業として進められているほか、荒川第四調節池、荒川第五調節池などの計画も存在します。

調節池内の貯水池は、1995年に「荒川貯水池彩湖」と命名され、1997年3月に完成しました。調節池全体としては、2003年度に完成しています。完成後まもない1999年8月には記録的な豪雨が発生し、その治水効果を発揮しました。また、2019年（令和元年）に日本列島を襲った令和元年東日本台風（台風19号）では、過去最大となる大量の水を貯留し、その機能の重要性が改めて示されました。

彩湖について

彩湖は、荒川第一調節池の中核をなす人造湖として1997年に完成しました。全長は約8.1キロメートル、面積は約1.18平方キロメートル、そして総貯水量は約1060万立方メートルです。湖の中央付近を東西に幸魂大橋が横断しています。

平常時は、湖の下流側にある調節池排水門は開いており、秋ヶ瀬取水堰で取り込まれた水が水位調節堰によって一定の水位に保たれています。湖水の水質保全のため、噴水によるプランクトン細胞の破壊や、湖底からの空気供給による曝気循環などが行われています。また、湖底の水を汲み上げて幸魂大橋より上流の階段状の滝から流すことで、水中に酸素を供給する仕組みも備わっています。

荒川で洪水が発生すると、調節池排水門が閉じられます。小規模な洪水では、鴨川からの逆流が田島ヶ原サクラソウ自生地を一時的に冠水させます。中規模の洪水では、羽根倉橋付近に設けられた越流堤から調節池の上流ブロックに水が流れ込みます。大規模な洪水時には、上流ブロックに貯まった水が流入堤を越えて彩湖のある貯水池ブロックへと流入します。調節池への洪水流入がおよそ1時間前および30分前には、住民へ注意を促すサイレンが鳴動する仕組みになっています。荒川本流の水位が低下し、安全が確認されると、再び調節池排水門が開かれ、貯留された水は荒川へと排水されます。

彩湖の周辺環境にも配慮がなされており、湖上流左岸には荒川彩湖公園、さらに下流の左岸には荒川の旧流路を利用した彩湖・道満グリーンパークが整備されています。幸魂大橋より下流には送電線用の「中の島」や植生筏があり、この区域は首都圏に残された貴重な自然環境保護のため、一般の立ち入りが制限されています。また、梅雨末期から台風シーズンにかけての7月から9月にかけては、洪水時の貯水容量を確保するため、平常時よりも約2.3メートル水位が低下されています。

調節池内および周辺の主な施設・環境

広大な河川敷を利用して、様々な施設や自然環境が点在しています。

自然・公園: 秋ヶ瀬公園（北部にはハンノキ林）、さくら草公園、田島ヶ原サクラソウ自生地、鴨川（荒川に合流）、荒川彩湖公園、彩湖・道満グリーンパーク、笹目公園
水門: 昭和水門、さくら草水門
スポーツ施設: さくら草公園ソフトボール場、ヤクルト戸田球場（東京ヤクルトスワローズ二軍本拠地）
交通: 戸田西IC（東京外環自動車道）、笹目橋、首都高速5号池袋線、国道17号（新大宮バイパス）
その他: 彩湖自然学習センター（戸田市立郷土博物館別館）、荒川水循環センター、荒川水循環センター上部公園

調節池区間に架かる主な橋梁（上流側から）

羽根倉橋（国道463号など）
秋ヶ瀬橋（埼玉県道40号・79号）
荒川橋梁（武蔵野線）
* 幸魂大橋（東京外環自動車道、国道298号）

治水効果

荒川第一調節池は、完成以来、その治水機能により顕著な効果を発揮しています。かつて課題となっていた夏の水不足緩和にも寄与しています。

特に、完成間もない1999年8月に発生した熱帯低気圧による記録的な豪雨では、彩湖に初めて洪水が流入しました。この時、上流の流入堤からは最大で毎秒690立方メートルの水が流れ込み、ピーク時には約2070万トンの水を貯留しました。この貯留効果により、荒川の下流部で最も河川敷が低いとされる京成押上線荒川橋梁地点において、荒川の水位を約39センチメートル低下させた計算結果が得られています。もしこの調節池による洪水調節が行われなかった場合、水位は橋桁下までわずか7センチメートルに迫る危険な状態になったと推定されており、その効果の大きさがうかがえます。

さらに、記憶に新しい2019年（令和元年）東日本台風（台風19号）においては、調節池全体の貯水容量である3900万トンのうち、実に3500万トンもの水を貯め込み、過去最高の貯水量記録を更新しました。これは調節池が設計通りの能力を発揮し、荒川流域の安全確保に大きく貢献したことを示すものです。

荒川第一調節池は、広大な敷地と貯水容量を活かし、荒川の洪水リスク低減と地域住民の安全確保に不可欠な役割を果たしています。計画中の他の調節池群が完成すれば、荒川流域全体の治水能力はさらに向上することが期待されています。

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