荒野の戦い

荒野の戦い：南北戦争の転換点

荒野の戦い（Battle of the Wilderness）は、1864年5月5日から7日にかけて、アメリカ南北戦争の東部戦線で繰り広げられた重要な戦闘です。北軍のユリシーズ・S・グラント中将と南軍のロバート・E・リー将軍が率いる両軍が、バージニア州中部の荒野と呼ばれる場所で激突しました。この戦いは、オーバーランド方面作戦の最初の戦いであり、両軍に大きな損害を与え、その後の消耗戦の始まりとなりました。

戦いの背景

戦場となった荒野は、バージニア州のスポットシルバニア郡とオレンジ郡にまたがる、約181平方キロメートルの広大な地域です。この地は、低木が密集し起伏に富んだ地形が特徴で、移動や戦闘が非常に困難でした。1862年から1864年にかけて、この周辺では多くの戦闘が行われており、特に1863年のチャンセラーズヴィルの戦いは、両軍に大きな被害をもたらしました。

グラントは、北軍のポトマック軍を率いてラピダン川を渡り、ウィルダネス・タバーンで集結しました。これは、1年前のチャンセラーズヴィルの戦いで南軍が北軍を攻撃した地点に近い場所でした。しかし、グラントは以前の戦場よりも西側に宿営地を選び、荒野での戦闘を避けようとしました。一方、リーは、戦力の劣る自軍が北軍の砲撃の優位を打ち消すために、あえて荒野での戦闘を選択しました。

戦闘の経過

5月5日、リー軍はグラント軍が南へ進軍する前に攻撃を開始しました。南軍の左翼を担うイーウェル軍団と右翼のヒル軍団が、北軍と激しく交戦しました。イーウェル軍団は北軍の第5軍団と対峙し、膠着状態となりましたが、ヒル軍団は北軍第2軍団と第6軍団の一部からなる部隊の攻撃を受け、後退を余儀なくされました。しかし、南軍は陣地を維持しました。

5月6日、北軍のハンコック将軍は、約40,000人の兵力を率いてヒル軍団への攻撃を再開しました。一方、イーウェル軍団の前には北軍の増援が到着し、リーは第2軍団をヒル軍団へ送ることができませんでした。ハンコックはヒル軍団を約3キロメートル以上も押し込み、大きな損害を与えました。リーは、ロングストリート軍団の到着を待ち望みましたが、正午頃にようやく到着しました。

ロングストリート軍団が到着すると、戦況は一変しました。疲弊していた北軍は後退し、ロングストリート軍団は失われた陣地を奪還し、さらに前進しました。しかし、ロングストリートは、戦闘の最中に友軍の誤射により重傷を負い、戦線を離脱せざるを得なくなりました。

戦闘終盤には、南軍のゴードン将軍の師団が北軍の右翼に攻撃を仕掛け、北軍兵士を多数捕虜にしましたが、日が暮れて戦闘は終了しました。夜間には、両軍の負傷兵が戦場で火災に巻き込まれ、多くの兵士が焼死するという悲惨な出来事も起こりました。

戦闘後

5月8日、グラントはポトマック軍に前進を再開させ、その数日後にはスポットシルバニア・コートハウスの戦いで再び南軍と激突しました。

荒野の戦いは、戦術的には南軍の勝利、戦略的には北軍の勝利と評価されることがあります。グラントは、戦闘の最後に軍を退却させたものの、これまでの北軍の将軍とは異なり、ワシントンD.C.へ引き返すことなく、作戦を継続しました。リー軍は、グラント軍に大きな損害を与えましたが、損失率はグラント軍の方が小さく、兵力の補充も困難でした。グラントは、この消耗戦を続けることで、南軍を追い詰める戦略を採用しました。リーは、グラントの消耗戦から脱却するために、ポトマック軍を早期に打ち破る必要がありましたが、グラントの戦略がそれを許しませんでした。

荒野の戦いでの損害は、資料によって異なりますが、両軍合わせて数万人の犠牲者が出たとされています。

戦場の保存

荒野の戦いの戦場の一部は、フレデリックスバーグおよびスポットシルバニア国立軍事公園として保存されています。この公園は、荒野の戦いだけでなく、フレデリックスバーグの戦い、チャンセラーズヴィルの戦い、スポットシルバニア・コートハウスの戦いの戦跡を保存し、後世に伝えています。

また、いくつかのボランティア団体が、戦場の保存活動を支援しています。荒野戦場友愛会は、エルウッドの邸宅やストーンウォール・ジャクソン将軍の腕が埋葬されたという伝説がある家族墓地を保存しています。さらに、南北戦争保存信託などの団体は、戦場付近での開発計画を阻止する活動も行っています。

荒野の戦いは、南北戦争の帰趨を大きく左右した重要な戦いであり、その戦跡は、今もなお歴史の教訓を語り続けています。

もう一度検索