菊池常三郎

菊池常三郎（きくち じょうさぶろう）

明治から大正期にかけて活動した、日本の医学界及び陸軍軍医の要人です。医師、医学博士であり、最終的には日本陸軍軍医総監の階級に達しました。1855年（安政2年）9月25日、肥前国（現在の佐賀県）小城藩にて、代々藩医を務める家系に生まれました。幼くして両親を失いましたが、陸軍軍医監として退官し、後に大阪回生病院を設立した兄、篤忠（あつただ）に養育されました。

教育と軍医への道

菊池は勉学に励み、大阪で英語と数学、京都でドイツ語を学びました。大学東校を経て、1881年（明治14年）、陸軍省第一回委託生として東京大学医学部を卒業。同期には、後に軍医として著名となる小池正直、森林太郎（森鴎外）、賀古鶴所らがいます。

卒業後、同年6月に陸軍軍医副に任官。その後昇進し、熊本鎮台病院医官を務めながら、熊本県医学校で外科学の教鞭をとるなど、教育にも従事しました。

海外での研鑽

1886年（明治19年）11月、軍の承認を得て私費でヨーロッパへ留学しました。ドイツのストラスブルク大学で外科学を、テュービンゲン大学、さらにオーストリアのウィーン大学では外科学と産婦人科学を専攻するなど、最先端の医学を学びました。留学中の1889年（明治22年）には官費留学生となり、ドイツ各地やパリでの学びに励んだ後、1890年（明治23年）5月に帰国。この経験が彼の医学者・軍医としての専門性を高めました。

陸軍での活躍と医学博士号

帰国後、菊池は陸軍軍医学校の外科学教員に就任し、二等軍医正に昇任。陸軍衛生会議議員や東京衛戍病院長も兼務しました。1892年（明治25年）には、『藁灰繃帯論』『村田銃創論』といった論文が評価され、医学博士の学位を授与されました。これは日本の軍医として初期の博士号取得者の一人です。

日清戦争後の1896年（明治29年）には、戦時陸軍医務の公式記録『明治二十七八年役陸軍衛生事蹟』の編纂委員を務めました。その後、第4師団軍医部長、日露戦争中の大本営付き、第1師団軍医部長を歴任。1907年（明治40年）3月には軍医の最高位である軍医総監に昇任し、予備役へ編入されました。

民間での活動と特筆すべき手術

軍を退いた後も、菊池は医療活動を継続。兄が設立した大阪回生病院の外科部長を務め、1907年（明治40年）7月には自ら西宮回生病院を創設し、初代院長に就任しました。

また、彼は大韓病院の院長も兼務。1909年（明治42年）12月22日、大韓帝国の内閣総理大臣であった李完用が刺客に襲われ重傷を負う事件が発生すると、緊急手術を執刀してその一命を救いました。この功績により、彼は韓国政府から勲一等太極章を授与されました。この出来事は、彼の卓越した医療技術と国際的な貢献を示すエピソードです。

その後も民間医療の発展に尽力し、1921年（大正10年）5月4日に死去しました。

著書と栄典

菊池常三郎は、日本の近代医学、特に外科学の発展に貢献しました。軍医として、また民間医師として多大な功績を残しています。

主な著書には以下のようなものがあります。

『簡明病理通論』
『藁灰繃帯論』
『銃創論』
『袖珍外科手術書』
* 『実用外科各論』（編著）

その功績に対し、従四位の位階や功三級金鵄勲章、勲二等旭日重光章、そして大韓帝国からの勲一等太極章など、数多くの栄典が授与されました。

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