菩提泉

菩提泉（ぼだいせん）

菩提泉は室町時代に奈良県の菩提山に位置する正暦寺で造られた僧坊酒であり、その高品質と技術に裏打ちされた名声から、古くから特別な存在として評価されています。菩提泉は南都の伝統的な醸造技術を代表する酒の一つであり、主に奈良地域で愛飲されてきました。

歴史的背景

中世の日本では、大和国や河内国の主な寺院が、最新の醸造技術を活用して僧坊酒を生産していました。中でも正暦寺は、その技術の発展に貢献し、室町時代には酒造技術書『御酒之日記』に記された方法で菩提泉の醸造が行われていました。

菩提泉は「奈良捶」「奈良」「奈良酒」「山樽」という呼び名で親しまれ、支配階級の人々にも特に好まれました。興福寺大乗院門跡を通じて朝廷にも提供され、室町幕府の九代将軍である義尚は『蔭涼軒日録』でこの酒を称賛しています。また、1522年には経尋が「無上之酒」として評価しており、その優れた品質が広く認められていたことがわかります。

1582年、織田信長が安土城で行われた饗応の際、菩提泉が「比類無シトテ」称賛されたことも記録されており、この酒が文化的かつ政治的な場面で重要な役割を果たしていたことが伺えます。

安土桃山時代に入ると、酒造りの中心が町方の造り酒屋に移行する一方、菩提泉に代表される僧坊酒の技術は奈良流として引き継がれ、高く評価され続けました。

醸造方法

『御酒之日記』によれば、菩提泉の製法は、まず乳酸発酵を行い、酸性条件で酵母の増殖を促進し、その後にアルコール発酵を行うという手法に基づいています。この乳酸発酵を活用した酒母が「菩提酛」と呼ばれる概念の始まりとなりました。

正暦寺や興福寺では、安土桃山時代までに様々な技術を発展させ、諸白仕込みや上槽、火入れなどの手法を組み合わせ、優れた澄み酒を醸造する技術を確立しました。

菩提酛は正暦寺から受け継がれ、明治時代まで奈良の酒蔵で使用されていましたが、政府の規制により消失しました。1986年には奈良県の酒蔵と研究機関が協力し、「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」を設立し、菩提山の湧き水から酒造に適した乳酸菌が発見されました。これを「菩提酛」とし、1999年には寺内での酒造が復活しました。現在でも、多くの酒蔵がこの技術を活かして新たな酒を生産しています。

関連項目

• - 正暦寺
• - 菩提酛
• - 南都諸白
• - 奈良流
• - 油長酒造

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