葦屋浦の戦い

葦屋浦の戦い

葦屋浦の戦い（あしやうらのたたかい）は、平安時代末期の治承・寿永の乱において、元暦2年（1185年）2月1日に、源範頼率いる平氏追討軍が、筑前国葦屋浦（現在の福岡県遠賀郡芦屋町一帯）で、九州の平家方豪族である原田種直らと激突した戦いです。

戦いの背景

一ノ谷の戦いで敗れた平家は、屋島に拠点を移し、瀬戸内海の制海権を維持していました。源頼朝は、海が穏やかになる時期を待って、弟の範頼を総大将とする追討軍を派遣します。範頼軍は、京を出発し山陽道を進軍しましたが、水軍力を持たず、兵糧も不足する状況で苦戦を強いられます。頼朝は、範頼に兵糧と船を送る一方、九州の武士の恨みを買わないように、東国武士を大切にするよう指示しました。

年が明けた元暦2年（1185年）正月、範頼軍は周防国から平氏の拠点である長門国赤間関へ進み、九州へ渡ろうとしましたが、彦島の平知盛軍に阻まれました。兵站の問題や東国武士の厭戦気分が蔓延する中で、豊後国の豪族、緒方惟栄・臼杵惟隆兄弟が兵船を提供し、周防国の宇佐那木上七遠隆が兵糧米を提供したことで、範頼軍は態勢を立て直すことができました。そして、北条義時、足利義兼、千葉常胤ら東国武士が多数参加し、豊後国へ船出しました。

葦屋浦の激戦

2月1日、北条義時、下河辺行平、渋谷重国らが先陣を切って葦屋浦に上陸します。そこで待ち構えていたのは、原田種直と子の賀摩種益率いる平家方の軍勢でした。激しい戦闘が繰り広げられ、行平や重国らが奮戦します。重国は矢で種直を射抜き、行平は美気種敦を討ち取るという活躍を見せ、範頼軍は勝利を収めました。

この戦いの勝利により、平氏の地盤であった長門・豊前・筑前が範頼軍の制圧下に置かれ、平氏は彦島に孤立することになりました。吾妻鏡には、下河辺行平が一番乗りの勲功を上げるために甲冑を売って小舟を買い取ったことや、三浦義澄が周防国の守備を命じられたものの、一番乗りの勲功を得られないと拒否し、説得されて周防に留まったことが記されています。この九州上陸において、緒方惟栄らの貢献は大きく、後白河院は彼らの功績を称えています。

その後の展開

しかし、兵糧不足が深刻化し、2月14日には一旦周防国へ撤退を余儀なくされます。頼朝は範頼に対し、九州での戦線維持が困難な場合は、直接四国の平氏を攻撃するように指示を出しました。一方、範頼軍の苦戦を知った義経は、後白河院の制止を振り切り屋島へと出陣します。

『平家物語』では、範頼が遊女と戯れている様子が描かれていますが、義経の屋島の戦いでの勝利は、豊後を押さえ、知盛軍を彦島に釘付けにした範頼軍の存在があってこそ成し遂げられたものでした。その後、兵糧問題が解決し、頼朝から三種の神器の奪還を命じられた範頼は、九州の武士団を組織し、彦島の平氏の逃走を阻止する役割を担います。

そして、3月24日、治承・寿永の乱の最後の決戦となる壇ノ浦の戦いを迎えることになります。

参考文献

吾妻鏡
金澤正大「平家追討使三河守源範頼の九州侵攻」『政治経済史学』第300号1991年6月〔菱沼一憲編著『源範頼』2015年戒光祥出版再録〕

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