渋谷重国

渋谷重国（しぶや しげくに）

渋谷重国は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した武将です。桓武平氏の流れを汲む秩父氏の一族であり、河崎重家の子として生まれました。

系譜

『畠山系図』によれば、重国の父である重家や祖父の基家（秩父武綱）は、武蔵国橘樹郡（現在の川崎市川崎区）に住み、河崎を称していました。重家の代に、禁裏の賊を退治した功績により、堀河天皇から渋谷の苗字を賜ったとされています。また、金王八幡宮を代々の鎮守として崇め、その周囲に館を構え居城としたことが、現在の渋谷の地名の発祥になったとも言われています。

重国の時代、応保年間には、武蔵国豊嶋郡谷盛（現在の東京都渋谷区・港区）から相模国高座郡渋谷荘（現在の神奈川県綾瀬市・藤沢市・大和市）までを領有し、渋谷荘司と称しました。

生涯

平治の乱では、源義朝の軍に従いました。『吾妻鏡』によると、義朝が敗れた後、所領を失って陸奥国へ逃れようとした佐々木秀義とその子らを渋谷荘に引き留めて援助し、秀義を婿として迎えています。治承4年（1180年）8月の源頼朝の挙兵の際には、秀義の息子たちは頼朝に従いましたが、重国は平氏への旧恩から、石橋山の戦いにおいて平家方の大庭景親の軍に属しました。

石橋山の戦いで頼朝が敗れると、8月26日、景親は重国のもとを訪れ、頼朝に従った佐々木兄弟の妻子を捕らえるよう要請しました。しかし、重国は「彼らが旧恩のために源氏に味方するのを止める理由はない。私はあなたの要請に応じて、外孫の佐々木義清を連れて石橋山に参じたが、その功を考えずに定綱らの妻子を捕らえよというのは本意ではない」と拒否しました。そのため、景親はそのまま帰って行きました。

その夜、佐々木兄弟は途中で出会った阿野全成と共に重国の館に帰着しました。重国は彼らを喜び、匿ってもてなしたとされています。その後、重国は頼朝に臣従し、所領を安堵され、子の高重と共に御家人となりました。

元暦元年（1184年）正月の源範頼率いる源義仲追討軍には、高重と共に参加しました。重国は範頼・義経と共に後白河法皇が幽閉されていた六条殿へ参じ、仙洞御所の警護にあたりました。2月には、捕虜となった義仲の家臣である樋口兼光を重国が預かりましたが、郎党が首を斬ろうとした際に失敗したため、高重が兼光を斬ったとされています。

高重は武勇に優れ、人柄も良かったため頼朝の覚えもめでたかったのですが、重国のもう一人の子である重助は、文治元年（1185年）4月の御家人たちによる無断任官問題で頼朝の怒りを買っています。

『吾妻鏡』に見られる重国の最後の記録は、建久5年（1194年）12月15日の導師を迎えるための馬の割り当てに関する記事です。

子孫

家督は次男の渋谷高重が継ぎました。長男の渋谷光重は、渋谷上庄や美作河合郷などを相続しました。1247年の宝治合戦の恩賞として、薩摩国の高城郡、東郷別府、入来院、祁答院、鶴田を下賜され、光重は長男の重直を相模国の渋谷荘に留め、他の5人の男子には薩摩の各領地を与え、それぞれ東郷氏（薩摩国）、祁答院氏、薩摩鶴田氏、入来院氏、高城氏（薩摩国）となりました。

平安時代に武蔵に移住した渋谷氏は、谷盛七郷（渋谷、佐々木、赤坂、飯倉、麻布、一ツ木、今井）などを領有し、渋谷城を構え、これが現在の東京都渋谷区の「渋谷」という地名の発祥になったとされています。

脚注

渋谷重国は、武士としての忠義と人情を重んじた人物であり、その行動は後世に語り継がれています。また、渋谷氏の発展に大きく貢献し、その子孫は各地で勢力を広げました。

関連項目

渋谷氏
吾妻鏡
飯田家義
城山公園 (綾瀬市)) - 重国の館であったとされる早川城跡。

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