蒙得恩

蒙得恩（もう とくおん、Men deen、1806年 - 1861年）は、中国清朝末期の動乱期に起こった太平天国の指導者の一人です。彼はもともと上昇という名前でしたが、太平天国の教義における上帝の諱（いみな）を避けるために、得天と改名し、その後さらに得恩と改めました。彼の出自は広西省潯州府平南県で、少数民族であるチワン族の出身です。

1850年、蒙得恩は洪秀全が創始した拝上帝会に入会し、太平天国蜂起の重要な拠点となった金田蜂起に参加しました。蜂起後、彼はその軍事的な才能と忠誠心から急速に昇進を重ね、御林侍衛、指揮、検点といった要職を歴任しました。その後、春官又正丞相という高い官位にまで昇進し、太平天国の女性部隊である女営の管理事務を任されるようになりました。これは彼が太平天国の中で重要な役割を担っていたことを示しています。

1856年、太平天国は内紛である天京事変に見舞われ、多くの幹部が失われるという深刻な事態に陥りました。この混乱を収拾するため、太平天国は新たな軍事体制を構築する必要に迫られました。この時、蒙得恩は中軍主将兼正掌率に任命され、軍の重要な一部を担うこととなりました。同時に、陳玉成が前軍主将、李秀成が後軍主将、李世賢が左軍主将、そして韋俊が右軍主将に任命され、五軍体制が確立しました。この五軍体制の下で、蒙得恩は政務を掌握するようになり、「朝中内外の事悉くその制に帰す」と言われるほど、絶大な権力を握りました。

蒙得恩は、天王洪秀全からの信頼も厚く、1859年にはその功績が認められ、賛王に封じられました。これは太平天国における最高の爵位の一つであり、彼の地位と影響力の大きさを物語っています。しかし、蒙得恩は1861年に病に倒れ、その生涯を閉じました。彼の死後、子の蒙時雍が幼賛王としてその地位を継ぎました。

蒙得恩は、太平天国の興亡において重要な役割を果たした人物の一人です。彼の軍事的な才能と政治手腕は、太平天国が一時的に勢力を拡大する上で大きく貢献しました。また、天京事変後の混乱期に、軍事体制を再編し、政務を掌握したことは、太平天国の維持に不可欠でした。彼の人生は、太平天国の激動の時代を象徴するものであり、その功績と影響は歴史の中で長く語り継がれています。

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