蒼茫の大地、滅ぶ

概要

『蒼茫の大地、滅ぶ』は、西村寿行が手掛けた長編パニック・サスペンス小説で、1977年から1978年にかけて『小説現代』に連載され、1978年に単行本として出版されました。本作は、田辺節雄による漫画化もされており、その緊迫感あふれるストーリーが多くの読者に支持されました。

物語は、架空の自然災害である大量発生した飛蝗（トノサマバッタ）が新たな脅威として立ちはだかる東北地方を舞台にしています。巨大な蝗群が日本海を越え、青森県に上陸することで農作物は食い荒らされ、人々は飢饉の危機に直面します。この危機感が東北地方に独立の動きを生じさせ、中央政府との緊張が高まる描写が印象的です。特に、政府が地方自治の重要性を軽視し、助けを求める地方を無視する姿を描くことで、社会問題としての地方自治政策を批判しています。

あらすじ

物語の始まりは1977年、青森県近海で発見された幅10km、長さ20km、総重量1億9,500万tの巨大な飛蝗群が、日本海を渡り青森に迫っています。空自のF-1機が威嚇を行いますが、エンジンが飛蝗を吸い込み墜落します。この事態が引き金となり、飛蝗は活動を開始し、津軽平野の農地を荒らし始め、交通事故や列車の運行停止をも引き起こします。

青森県知事の野上は、蝗害に対抗するために東北各県から若者を集め、〈東北地方守備隊〉を結成しますが、政府はこの動きに対して抵抗感を示し、あくまで都市部への備蓄米の移動を優先します。若者たちが集まる中で、政府の計画は徐々に混乱を招き、食料の高騰という問題が浮かび上がります。青森県の市民は政府の米接収を阻止し、蝗害の被害が広がっていく様子が描かれます。

問題が深刻化する中、飛蝗群は岩手県に南下し、さらには盛岡に暴走族が侵入する事態も発生。社会が混乱する中で、守備隊がなんとか秩序を保ちながら、協力して抗う姿が強調されています。しかし政府は野上の暗殺を試みますが、忠実な守備隊によって阻止されます。国会では、東北各県の代表が地方の特権を主張し始め、野上は地方自治の重要性を訴える場面が描かれます。

次第に蝗害は宮城、福島へと広がっていき、食物不足に端を発する暴動が発生します。人々が食料を得るために暴力に訴えるWIN BACKな状況が続き、失業者が増大し、社会の混乱は頂点に達します。

最終的には、政府により被災地への救助が限られた金額で行われ、その間に倒産や物価の暴騰が起こります。東北の人々はついに耐え切れなくなり、独立を決意します。彼らは「奥州国」と名乗る新しい国を形成し、艱難を共にした仲間たちと共に復興に向けて歩み始めます。

登場人物

物語には多くのキャラクターが登場し、それぞれの立場から物語を形成しています。青森県知事の野上高明は、地方の独立を目指すリーダーとして群を率い、忠誠心深い刑部保行が守備隊の総隊長としてピンチを乗り越えていく様子が描かれます。野上の娘、香江も重要な役割を果たし、彼女の命がけの行動はストーリーに緊迫感を加えます。こうした複数のキャラクターの目を通して、困難な状況で何が重要かが問われ続けます。

『蒼茫の大地、滅ぶ』は、単なるパニック小説に留まらず、地方自治の問題や人間の連帯の大切さを問いかける作品として、多くの読者に支持され続けています。

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