蔡元培

蔡元培：中国近代教育の父、その生涯と業績

蔡元培（さい げんばい、1868年1月11日 - 1940年3月5日）は、清末から中華民国初期にかけて活躍した政治家、教育者です。字は鶴卿、仲申、民友、孑民。

生涯

浙江省紹興府山陰県（現在の紹興市越城区）に生まれ、幼い頃から学問に励みました。17歳で秀才となり、1890年には進士に及第。翰林院編修に任じられるなど、順調な官僚の道を歩みます。しかし、日清戦争での敗北や戊戌変法の失敗を目の当たりにし、政治改革の必要性を痛感。清朝の政治に失望し下野すると、新学による教育を提唱・実践しました。

1902年には上海で中国教育学会を設立し、会長に就任。愛国学社や愛国女学を設立するなど、教育を通じて民権主義と革命を訴えました。また、光復会を設立し、武装蜂起を画策するなど、辛亥革命にも積極的に関与しました。革命後は南京臨時政府の教育総長に就任し、教育改革の必要性を訴えましたが、袁世凱の専制政治に反対し辞職。その後、ヨーロッパに留学し、教育、哲学、芸術などを研究しました。

1916年に帰国すると、翌年北京大学学長に就任。大学の改革に着手し、指導体制、学科、学制の整備、科学研究機関の設立、平民教育の提唱、男女共学の実現など、多岐にわたる改革を断行しました。また、李大釗、陳独秀、魯迅など、当時最先端の知識人を積極的に招聘し、北京大学を中国における学術の中心地、新文化運動の中心へと発展させました。

五四運動後、辞職を余儀なくされますが、1926年に帰国。国民革命軍の北伐に参加し、国民政府の教育行政機関である大学院（後の教育部）院長、監察院院長、中央研究院院長などを歴任しました。満洲事変後は抗日運動を呼びかけ、国立音楽院（現在の上海音楽学院）や国立芸術院（現在の中国美術学院）を設立するなど、教育・文化の発展に尽力しました。

晩年は、宋慶齢、魯迅らと中国民権保障同盟を設立し、国民党の特務統治に反対。国共合作を支持するなど、愛国民主活動を積極的に展開しました。1940年3月5日、香港にて病没。その生涯は、中国近代教育の発展に大きく貢献しました。

思想の自由と「兼容並抱」

蔡元培の教育理念の中心には、思想の自由と「兼容並抱（けんようへいほう）」の精神がありました。「兼容並抱」とは、あらゆるものを包容するという意味で、蔡元培は北京大学において、あらゆる学派を平等に扱い、自由に競争させることを目指しました。そのため、進歩派だけでなく、保守派であっても学識の高い人材を積極的に招聘しました。

この方針に対しては、進歩派の教員の中にも疑問を持つ者がいましたが、蔡元培の真摯な姿勢は、やがて保守派の教授たちの尊敬を集めることとなりました。五・四運動に絡んで蔡元培が辞表を提出した際、擁帝派の辜鴻銘までもが慰留したというエピソードは、蔡元培の人となりをよく表しています。

家族

蔡元培は生涯に3度の結婚をしています。最初の妻である王昭（仲明）は1900年に病没。翌年、黄世振（仲玉）と再婚しますが、黄世振も1921年に病没。1923年には周峻（養浩）と再婚し、5男2女をもうけました。

蔡元培の思想と行動は、その後の中国の教育、文化、政治に大きな影響を与えました。彼の業績は、今もなお高く評価されています。

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