蔵の街遊覧船

蔵の街遊覧船：巴波川の恵みと歴史を伝える船旅

栃木県栃木市を流れる巴波川で運航されている蔵の街遊覧船は、単なる観光遊覧船ではなく、地域の歴史と文化を伝える重要な役割を担っています。2005年、市民有志による体験イベントとしてスタートしたこの事業は、2009年には通年運航へと発展し、2011年にはNPO法人として組織化されました。行政からの補助金に頼らず、乗船料収入を基盤に活動を続け、その独自性と地域貢献から高く評価されています。

江戸時代の面影を今に伝える船旅

遊覧船は、幕末から昭和初期にかけて巴波川で活躍した都賀船や部賀船をモデルに作られています。全長約300mの運航区間では、船頭が竿を使って巧みに船を操り、乗客は昔ながらの船出の掛け声で旅が始まります。船頭たちは、単なる操船者ではなく、栃木市の歴史や巴波川にまつわる物語、そして郷土の伝統歌である栃木河岸船頭唄を披露する語り部でもあります。ボランティアとして活動する船頭たちは、月1回の学習会で歴史や文化を学び、知識を深めています。

乗船中は、川面からしか見ることのできない蔵の街並みの美しい景観を堪能できます。さらに、当日券であれば何度でも乗り降り自由なので、異なる船頭による解説や歌声を比較して楽しむことも可能です。ペット同伴もOKなので、大切な家族と一緒の船旅も楽しめます。年末年始を除き、天候と水量に問題がなければ毎日運航しています。約20分の短い航海ですが、歴史と自然が融合した忘れられない体験となるでしょう。

NPO法人としての活動と地域貢献

2011年9月に設立されたNPO法人蔵の街遊覧船は、現在26名の会員と11名の船頭が活躍しています。独自に制作した船や船大工に発注した船など、5艘の船を所有しています。2016年には、女性や高齢者の活躍を評価され「常陽ビジネスアワード」優秀賞を受賞するなど、その活動は広く認められています。

法人化以降は、栃木市にとどまらず、埼玉県志木市や青森県弘前市などへ出張し、遊覧船の運航や船頭育成にも力を注いでいます。特に弘前市では、さくらまつり期間中の運航で6000人以上を乗船させるなど、大きな成功を収めました。これは、地元の活性化に貢献するだけでなく、蔵の街遊覧船のノウハウを全国に広げる取り組みとして大きな意義を持っています。

巴波川と蔵の街の歴史

栃木市は江戸時代、日光例幣使街道の宿場町として、そして巴波川の水運を利用した物資集散地として栄え、「小江戸」と呼ばれていました。当時の繁栄は、現在でも巴波川沿いに残る土蔵や歴史館などから伺えます。しかし、舟運の衰退と共に川は汚れ、暗渠化も検討されました。

1988年の「誇れるまちづくり事業計画」を契機に、蔵を活用したまちづくりが始まり、蔵の街大通りや巴波川綱手道の景観整備が進められました。その中で、川を活用した地域活性化を目的とした「うずま川遊会」が誕生し、遊覧船の構想が実現しました。イベントとして始まった遊覧船は、予想を上回る人気となり、週末運航を経て、2009年には毎日運航へと至ります。

2011年の東日本大震災、2019年の台風19号による被害、そして2020年のコロナ禍と、数々の困難を乗り越え、現在も活動を続けています。東京オリンピック聖火リレーへの参加計画もあったものの、延期となり、コロナ禍では乗船定員を減らすなどの感染対策を取りながら運航を再開しました。これらの経験は、蔵の街遊覧船の強さと柔軟性を示すものと言えるでしょう。

未来への航海

蔵の街遊覧船は、単なる観光事業の枠を超え、地域活性化、歴史文化の継承、そして人材育成という多様な役割を担っています。今後も、巴波川と蔵の街の歴史と魅力を伝えながら、未来に向けて航海を続けることでしょう。

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