薮田重守

薮田重守：柳沢吉保を支えた家老の生涯

薮田重守(やぶた しげもり、1664-1747)は、江戸時代中期に活躍した柳沢氏家臣であり、家老を務めた人物です。美濃国加納藩の家臣を祖とし、若くして江戸に出て、那須資弥の家臣・薮田重之の養子となりました。那須家が改易された後、浪人生活を送ることとなりますが、元禄元年(1688年)、柳沢吉保に仕えることとなります。

吉保は、この年、将軍徳川綱吉の側用人に抜擢され、一万二千石の大名となりました。重守は当初「薮田五郎右衛門」を名乗り、吉保に仕え始めます。用人役として50石を拝領し、その後加増を受け、元禄7年(1694年)には400石を知行しました。元禄10年(1697年)には家老に昇進し、600石を知行するようになりました。

将軍綱吉はしばしば吉保邸を訪れましたが、その際、重守も下賜品を拝領していたと伝えられています。さらに、吉保と各地の外様大名との交渉役も務めており、『豊田家史料』には、熊本藩主細川綱利、高松藩主松平頼常、前橋藩主酒井忠挙、篠山藩主松平信庸などから重守に宛てられた書状が残されています。元禄15年(1702年)には吉保邸が焼失した際、吉保は一時的に重守邸に避難したという記録も残っています。

宝永元年(1704年)、吉保が甲斐国を拝領すると、重守は甲府に赴任。甲府城山手門外に屋敷を与えられ、1600石を拝領しました。吉保は黄檗宗に帰依し、京都萬福寺の悦峯道章を招聘して、甲府岩窪町に永慶寺を創建しました。重守は宝永4年(1707年)には吉保を代表して永慶寺を参拝するなど、寺院の運営にも関与していたとみられます。宝永6年(1709年)に吉保が隠居すると、重守は江戸に戻りました。

正徳2年(1712年)3月、重守は柳沢姓を与えられ、「柳沢市正」と名乗るようになりました。翌年には吉保の娘・増子が重守の子・里守の妻となり、重守は柳沢家の一門となりました。正徳4年(1714年)に吉保が亡くなると、重守は甲府の永慶寺に運ばれた吉保の遺体に随行し、葬儀を行いました。享保9年(1724年)に柳沢氏が甲斐から大和郡山へ転封されると、翌年には出家し、「白鴎」と号しました。

柳沢家では、荻生徂徠が吉保の公用日記『楽只堂年録』を編纂しましたが、重守も吉保没後の元文5年(1740年)に吉保一代記である『永慶寺殿源公御実録』（豊田家史料）を編纂しました。2011年の『柳沢吉保と甲府城』展における調査では、吉保から重守への書状70点以上が発見され、その多くは髙橋修氏によって翻刻されています。これらの史料は、重守が柳沢家において、単なる家老以上の重要な役割を担っていたことを示唆しています。重守の生涯は、柳沢吉保の側近として、政治・宗教・文化など多岐にわたる分野で活躍した人物像を浮き彫りにしています。彼の活動は、柳沢家の歴史、そして近世社会の理解に不可欠な要素であると言えるでしょう。

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