藤井松太郎

藤井松太郎：日本の鉄道技術を支えた巨星

藤井松太郎（ふじい まつたろう）は、1903年（明治36年）10月5日に生まれ、1988年（昭和63年）2月4日に没した、日本の鉄道技術者です。第7代日本国有鉄道（国鉄）総裁（在任1973年 - 1976年）を務め、その卓越した技術力と親分肌の性格から、「トンネル松」の愛称で親しまれました。

生い立ちと学歴

藤井松太郎は、北海道雨竜郡一已（いちゃん）村（現在の深川市）の農家に生まれました。父は香川県出身で、開拓時代の一已村に移住したという背景を持ちます。幼少期は苦労も多かったようですが、第一次世界大戦による豆需要で家計が安定し、高等小学校、大川中学校（現在の香川県立三本松高等学校）へと進学します。中学校では優秀な成績を収め、旧制第六高等学校、東京帝国大学工学部土木工学科へと進み、鉄道技術者としての道を歩み始めました。

鉄道省・国鉄での活躍

1929年に東京帝国大学を卒業後、鉄道省に入省。1933年には鉄道技師に昇進し、トンネルや橋梁建設の第一線で活躍しました。その技術力は国内にとどまらず、中国大陸での橋梁修繕にも貢献しています。戦後は、運輸省鉄道総局施設局線路課長、国鉄信濃川工事事務所長を歴任し、信濃川発電所の建設を指揮しました。この時、後の総理大臣となる田中角栄と出会い、親交を深めています。

1952年には国鉄理事・技師長に就任しますが、新幹線建設を巡り当時の十河信二総裁と対立し、技師長を退任、建設担当常務理事となります。その後、国鉄を退職し、日本交通技術株式会社社長となりますが、1963年に石田禮助総裁の要請で国鉄に復帰、再び技師長として辣腕を振るいました。

国鉄総裁としての挑戦

1973年、田中角栄首相の要請を受け、第7代国鉄総裁に就任します。技術者出身の総裁としては、初代の下山定則以来でした。総裁在任中は、新幹線の総点検の実施、運賃値上げに対する国民の理解を求めるための全面広告掲載など、様々な施策を打ち出しました。

しかし、国鉄の労使問題は深刻化しており、スト権を巡る労使間の対立は激化していました。藤井総裁は、「条件付き付与」という見解を表明しますが、自民党からの強い反発を受けます。1975年には国鉄全線が8日間に渡ってストップするという事態に陥り、結果として藤井総裁は責任を取り辞任することとなりました。

退任後と晩年

国鉄総裁を退任後も、日本交通協会会長や日本鉄道施設協会会長などを歴任し、鉄道界に貢献しました。特に、青函トンネル技術委員会の委員長として、その建設に尽力しました。藤井松太郎は、トンネル開通直前の1988年2月4日、肺癌により84歳で生涯を閉じました。

まとめ

藤井松太郎は、鉄道技術者として、また国鉄総裁として、日本の鉄道の発展に大きな足跡を残しました。技術者としての卓越した能力と、親分肌で豪快な人柄は、多くの人々に慕われました。困難な問題にも果敢に立ち向かい、その生涯を鉄道に捧げた姿は、後世に語り継がれることでしょう。


参考文献
田村喜子『剛毅木訥-鉄道技師・藤井松太郎の生涯-』毎日新聞社、1990年
鉄道ジャーナル1999年11月号別冊No.39『日本国有鉄道　大いなる旅路』、鉄道ジャーナル社、1999年
NHKスペシャル『戦後50年そのとき日本は「第10回・国鉄労使紛争～スト権奪還ストの衝撃～」』NHK、1995年放送
NHK取材班『NHKスペシャル 戦後50年そのとき日本は 第5巻』日本放送出版協会、1996年

もう一度検索