藤井真信

藤井真信

藤井真信（ふじい さだのぶ、1885年1月1日 - 1935年1月31日）は、日本の財政家、大蔵官僚であり、大蔵大臣を務めた人物です。その生涯は、激動の時代における日本の財政運営に深く関わっていました。

生い立ちと学歴

藤井真信は、徳島県麻植郡牛島村（現在の吉野川市）で、藍商を営む名家の四男として生まれました。徳島中学校、第三高等学校を経て、1909年に東京帝国大学法科大学独法科を首席で卒業しました。この卓越した学業成績は、彼の才能を示すものでした。

大蔵省でのキャリア

大学卒業後、藤井は高等文官試験に合格し、大蔵省に入省しました。主に税務畑を歩み、その能力を発揮しました。専売局書記を皮切りに、蔵相事務担当秘書官、主税局国税課長、大臣官房秘書課長、東京税務監督局長、主税局長、主計局長と、要職を歴任しました。1934年には、高橋是清蔵相の下で大蔵次官に就任し、そのキャリアは頂点を迎えました。

大蔵大臣就任と苦悩

1934年、帝人事件の影響で斎藤内閣が総辞職し、岡田内閣が発足しました。高橋是清は、後任として藤井に大蔵大臣の就任を要請します。当初、病弱を理由に固辞した藤井でしたが、高橋の「国家危急の時は身を鴻毛の軽きにおくということを知らぬか」という強い言葉に説得され、やむなく蔵相に就任しました。

蔵相として藤井は、高橋財政の基本路線である軍備予算膨張抑制を継承しました。同時に、赤字国債の消化を目指し、軍需産業と輸出産業に課税する「臨時利得税」の制定を試みましたが、これは実現しませんでした。さらに、昭和10年度予算案作成では、大蔵省原案で大幅な歳出削減を断行したため、各省からの猛烈な反発に遭いました。特に、陸軍省、海軍省、農林省からの要求は激しく、藤井は病に苦しみながらも、予算閣議で粘り強く交渉を行いました。

病と死

藤井は、喀血に苦しみながらも、予算案を守ろうと奔走しました。時には涙を流して訴えるなど、あらゆる手段を講じました。最終的に、歳出は微増にとどまりましたが、公債発行についてはある程度の削減に成功しました。しかし、その代償として、藤井の健康は著しく悪化しました。

予算案が閣議決定された2日後、藤井は病状が悪化し、慶應大学病院に入院しました。その日のうちに蔵相を辞任しましたが、清貧な生活を送っていたため、入院費用を捻出することができませんでした。年末には退院を余儀なくされ、翌1935年1月30日に再び入院しましたが、翌31日午前5時45分、帰らぬ人となりました。死因は副鼻腔蓄膿症と気管支拡張症でしたが、重度の神経衰弱も患っていたとされています。

死後

藤井の死は、多くの人々に深い悲しみをもたらしました。弔問には岡田首相や高橋是清も訪れました。葬儀は青山斎場で行われ、葬儀委員長は十五銀行の西野元頭取が務めました。遺族は葬儀費用や遺児の学費にも困窮していましたが、岡田首相をはじめ、閣僚や各省官吏からの寄付金によって救済されました。

人物像

藤井真信は、卓越した能力と強い責任感を持ち、国家財政のために尽力した人物でした。清廉潔白な人柄で知られ、その死後も多くの人々に惜しまれました。彼の生涯は、激動の昭和初期における官僚の姿を象徴するものであり、後世に語り継がれるべきでしょう。

親族

義兄に関口寿という電気技術者・実業家がいました。

関連文献

大谷健著『大蔵大臣の昭和史』（ビジネス社、1986年）ISBN 4828402667

もう一度検索