藤岡康宏

藤岡康宏（ふじおか やすひろ、1939年1月11日生）は、日本の著名な法学者であり、民法を専門としている。北海道大学および早稲田大学で長年にわたり教育・研究活動に従事し、両大学から名誉教授の称号を授与されている。広島県で生まれた。

その経歴は多岐にわたる。1957年に広島県立府中高等学校を卒業後、1959年に北海道大学教養部文類に入学する。しかし、在学中に父を亡くし、家業を継承する必要が生じたため、一時大学を中退する経験を持つ。その後、再び勉学を志し、1964年に北海道大学教養部文類に再入学。1967年に法学部を卒業し、大学院法学研究科修士課程（民事法専攻）へと進んだ。1969年に修士課程を修了後、母校である北海道大学法学部の助手に任じられ、法学研究者としてのキャリアをスタートさせた。助教授を経て、1978年には教授に昇任し、北海道大学で民法学の研究と教育に貢献した。この間、1992年12月から1994年8月にかけては、北海道大学の評議員として大学運営にも深く関与している。

1994年9月からは活躍の場を移し、早稲田大学法学部教授に就任した。同時に、1995年4月には北海道大学名誉教授の称号を得ている。早稲田大学では、法学部教授としてだけでなく、2004年4月からは大学院法務研究科教授、2005年4月からは機構改革に伴い早稲田大学法学学術院教授を務めるなど、大学院教育や組織運営においても重要な役割を担った。2006年9月から2008年8月までの2年間は、早稲田大学法学会会長を務めている。そして、2009年3月には早稲田大学名誉教授となった。このように、北海道と東京という日本の主要な二拠点で、卓越した研究者・教育者としての地位を確立した。また、国際的な視野も持ち合わせており、1979年3月から1981年3月までの2年間、ドイツのマックス・プランク比較私法研究所（ハンブルク）とアメリカのカリフォルニア大学バークレー校にて在外研究を行った。長年にわたる教育・研究活動、法学の発展への顕著な貢献が認められ、2018年11月には瑞宝中綬章を受章している。

藤岡康宏氏の主要な研究領域は、民事法学全般に及び、特に権利論、損害賠償法の構造論、民法と憲法の協働に関する探求を行った。具体的には、「損害賠償法の基礎理論の開拓」、「人格権侵害の救済に関する総合的研究」、「契約と不法行為の交錯」、「企業活動における法的責任の諸相」といったテーマに深く取り組んだ。研究の初期段階においては、不法行為による損害の補償を保険制度によって代替させるという発想のもと、不法行為法の制度的な構造を分析する研究に主に従事した。その後は、名誉権を中心とする人格権の研究に重点を移した。

その研究成果の中でも特筆されるのは、不法行為法に関する体系的な考察である。彼のこの分野における貢献は、1975年に北海道大学から授与された法学博士（論文博士）の学位論文である『自動車交通事故による損害の補償―交通災害保険化構想への総論的展望（1）～（2完）』の内容も包含し、さらに発展させた大著『損害賠償法の構造』（成文堂、2002年、790頁）として結実している。この著作は、彼の不法行為法理論の中核を示すものであり、学界に大きな影響を与えた。また、彼の不法行為に関する理論体系の全体像は、山田卓生氏、淡路剛久氏らとの共著である『有斐閣Sシリーズ 民法IV 債権各論』（有斐閣、1991年初版、2009年第3版補訂）のうち、彼が執筆を担当した「不法行為法」の章にも明瞭に示されている。民法総則に関する著作として『民法総則（現代民法講義1）』（法律文化社）、判例解説としては山田卓生氏、淡路剛久氏らと共編した『基本判例民法』（有斐閣、2001年）など、多数の著作がある。

学界においては、日本私法学会、比較法学会、日独法学会などの主要な学会に所属し、活発な学術活動を行った。教育者としても多くの後進を育成しており、北海道大学時代の指導教授には、民法分野の山畠正男氏、比較法分野の五十嵐清氏がいた。彼の門下生には、現在北海道大学で教授を務める藤原正則氏、池田清治氏、曽野裕夫氏、同大学准教授の根本尚徳氏、南山大学准教授の都筑満雄氏などがいる。これらの門下生たちは、それぞれの分野で活躍しており、藤岡氏の学統が受け継がれていることを示している。

主な著作には以下のものが挙げられる。

磯村保、浦川道太郎ほかと共著『民法IV 債権各論』（有斐閣、1991年 初版・2009年 第3版補訂）
山田卓生、淡路剛久ほかと共編『基本判例民法』（有斐閣、2001年）
『損害賠償法の構造』（成文堂、2002年）
『新・現代損害賠償法講座2（権利侵害と被侵害利益）』（日本評論社、1998年）
* 『民法総則（現代民法講義1）』（法律文化社）

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