藤野寛

藤野 寛

藤野 寛（ふじの ひろし）は、1956年に京都府で生まれた日本の哲学者であり、現在、國學院大學文学部で教鞭をとっています。彼の学問的な専門は哲学と倫理学であり、中でもテオドール・W・アドルノやマックス・ホルクハイマーといった、いわゆるフランクフルト学派の批判理論に関する研究で知られています。フランクフルト学派の視点から、現代社会の様相や文化と野蛮の関係、そして個人の内面に宿る倫理的な問いを深く掘り下げています。

藤野教授の学歴は、京都大学文学部哲学科を1980年に卒業したことから始まります。その後、同大学大学院文学研究科に進み、1986年に博士課程を学修退学しました。さらなる研鑽を積むため、彼はドイツへ留学し、フランクフルト大学で哲学の研究を続けました。1993年には、アドルノやホルクハイマーが活動したフランクフルト大学において哲学博士号を取得しています。

ドイツから帰国後、藤野教授は教育者としての道を歩み始めます。1997年に高崎経済大学経済学部の専任講師として着任し、研究教育に従事しました。高崎経済大学では助教授、教授と昇進を重ね、2006年には一橋大学大学院言語社会研究科の教授に転じ、より幅広い視点から社会思想や哲学の研究に取り組みました。そして2016年からは、現在の所属である國學院大學文学部の教授として、研究活動と後進の指導にあたっています。

彼の哲学的考察は、多数の著作を通じて発表されています。フランクフルト学派の研究成果としては、『アドルノ/ホルクハイマーの問題圏 同一性批判の哲学』（勁草書房、2000年）が初期の代表作です。また、歴史的な悲劇を踏まえた倫理的な問いを投げかける『アウシュヴィッツ以後、詩を書くことだけが野蛮なのか アドルノと〈文化と野蛮の弁証法〉』（平凡社、2003年）は、その思想の深さを示す一冊です。教育にも熱心で、『高校生と大学一年生のための倫理学講義』（ナカニシヤ出版、2011年）のような入門書も執筆し、哲学の学びを広めることにも貢献しています。

フランクフルト学派に加えて、藤野教授は幅広い哲学史上の思想家にも関心を寄せています。例えば、実存主義哲学者セーレン・キルケゴールを論じた『キルケゴール 美と倫理のはざまに立つ哲学』（岩波現代全書、2014年）や、アルトゥル・ショーペンハウアーの著作の翻訳を手がけていることからも、その研究範囲の広さがわかります。さらに、現代社会における人間関係の重要なテーマである『「承認」の哲学 他者に認められるとはどういうことか』（青土社、2016年、新版2023年）や、『友情の哲学: 緩いつながりの思想』（作品社、2018年）といった著作は、彼の研究が現代人の直面する具体的な問題にも深く関連していることを示しています。

共編著としては、『表現の〈リミット〉』（齋藤純一共編、ナカニシヤ出版、2005年）があり、倫理学の新たな探求を行っています。翻訳者としても活動しており、ジークムント・フロイトの『フロイト全集』の一部（須藤訓任共訳、岩波書店、2006年）や、専門分野の文献であるホルクハイマーとアドルノの社会学論集『ゾチオロギカ』（三光長治・市村仁共訳、平凡社、2012年）、そしてショーペンハウアーの論文集『自殺について 他四篇』（岩波文庫、2025年刊行予定）などを翻訳し、海外の重要な思想を日本の読者に紹介する役割も担っています。

藤野寛教授は、フランクフルト学派研究を基盤としつつ、倫理、承認、友情といった現代的なテーマや、哲学そのもののあり方についても深く考察を続けている哲学者です。その多岐にわたる著作や教育活動を通じて、現代社会に対する洞察と批判的な視点を提供し続けています。

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