蘭嶼

蘭嶼：台湾の孤島、その自然と文化、そして歴史の影

台湾本島南東沖、太平洋上に浮かぶ蘭嶼は、周囲約40kmの火山島です。かつては紅頭嶼と呼ばれ、別名Botel Tobagoとしても知られています。面積は約48.4平方キロメートル、最高峰は紅頭山（548m）です。海岸線は複雑に入り組んでおり、島の大部分を山地が占めていますが、沿岸部には平地も存在します。熱帯雨林気候に属し、年間降水量は3,000mmを超え、雨の日が多いのが特徴です。

タオ族の島

蘭嶼には、フィリピン・バタン諸島からの移住者の子孫であるタオ族（ヤミ族とも呼ばれる）が約4,000人暮らしています。彼らの伝統文化は、独特の船や織物、そして豊かに残る口承伝承などに表れています。主要産業は、トビウオなどの漁業と、伝統文化や自然景観を生かした観光業です。島内各地には民宿が点在し、自給自足的な農業も行われています。タロイモやサツマイモの栽培、養豚、養鶏に加え、山羊の放牧も盛んです。また、蘭嶼小耳猪と呼ばれる小型の黒豚の発祥地としても知られています。

豊かな自然と固有種

蘭嶼の熱帯雨林には、固有種や亜種を含む多様な動植物が生息しています。ランユウコノハズク、コウトウシロシタセセリ、コウトウコガシラミズムシなどの昆虫類や、ランショシシンランなどの植物、ワタセグモ（タランチュラの一種）といった生物が、この島独特の生態系を築いています。学名にlanshuanaやbotelensisといった蘭嶼に由来する名称を持つ種も多く見られます。

歴史の足跡

蘭嶼の歴史は古く、1618年の明の張巒による『東西洋考』にも紅頭嶼として記述が見られます。1877年には恆春県に併合されましたが、1895年の下関条約後、日本政府は原住民保護のため開発を禁止し、文化人類学の研究区域として指定しました。1897年には鳥居龍蔵による調査が行われ、タオ族の文化が広く知られるようになりました。

交通とアクセス

蘭嶼へのアクセスは、台湾本島台東からの空路と水路が主な手段です。台北松山空港から台東空港を経由し、蘭嶼空港へ行くのが一般的で、徳安航空が毎日多くの便を運航しています。水路では、台東の富岡漁港から高速船で約3時間で開元港に到着します。緑島への寄港便もあります。屏東県の後壁湖漁港からも船が出ています。島内では郷営バスが運行されていますが、本数は少なく、バイクが主要な交通手段となっています。

放射性廃棄物貯蔵施設問題

1982年、台湾電力（台電）は蘭嶼に低レベル放射性廃棄物貯蔵施設を設置しました。この施設の存廃を巡っては、住民運動が現在も続いています。1996年には高レベル核廃棄物が持ち込まれた疑惑が発生し、激しい反対運動が展開され、それ以降廃棄物の搬入は停止されています。2002年には島民の大規模なデモが行われ、政府は島外撤去を約束しましたが、代替用地の確保などの問題から、撤去は実現していません。この問題は、蘭嶼の住民と台湾社会全体の重要な課題であり続けています。

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