虚無僧

虚無僧について

虚無僧（こむそう）とは、禅宗の一派である普化宗に属する僧侶です。普化宗の起源は唐の普化にさかのぼり、南宋で修行していた臨済宗の僧が日本に伝え、由紀の興国寺に普化庵を設立したことから、日本における普化宗の歴史が始まりました。かつては「こもそう」と言われ、これは坐臥用のこもを腰に巻いていたことに由来しています。

虚無僧は剃髪せず、半僧半俗という特徴を持つ存在で、通常は有髪の僧侶として認識されています。尺八を演奏しながら、喜捨を求めて諸国を旅する彼らの姿は、多くの種類の服装スタイルで形成されています。小袖に袈裟を掛け、深編笠をかぶり、刀を帯びた姿が一般的です。江戸時代の初期には普通の編笠をかぶり、白衣を着ていましたが、時が経つにつれて服装に規定が設けられました。

具体的には、托鉢の際には藍色または鼠色の無紋の服に男帯を前で結びます。腰には予備の尺八を収めた袋をつけ、首にはもう一つの袋を、背中には袈裟を掛け、頭には「天蓋」と呼ばれる深編笠を載せます。さらに足元には5枚重ねの草履を履き、手には尺八を持つスタイルが定められていました。

旅行の際には、藍色の綿服や脚袢、甲掛、わらじを履くこともありました。また、時代劇などで見られる「明暗」と書かれた偈箱は、明治末期から見られるようになり、虚無僧の姿を模した門付芸人によって用いられました。この「明暗」という文字には特に宗教的な意味はなく、「私が明暗寺に所属している」という意味合いがあります。江戸時代には、皇室の裏紋である円に五三の桐の紋が刻まれていました。

偽の虚無僧も登場しており、彼らも皇室の裏紋を模倣することがありました。例えば、慶長19年（1614年）には『慶長掟書』が成立したとされ、「武者修行の宗門として、全国を自由に往来することが許されていた」との記述があります。しかし、この記録は原本が現存せず、偽書ではないかと疑問視されています。刑を犯した武士が普化宗の僧となることで保護されるケースもあり、その結果、江戸中期以降には遊蕩無頼の者たちが虚無僧の姿を流用する事例が増え、幕府が虚無僧を規制するようになりました。

明治4年（1871年）、明治政府は普化宗を廃止し、その結果虚無僧は僧侶としての資格を失い、民籍に編入されました。しかし、明治21年（1888年）には京都の東福寺の塔頭・善慧院が明暗寺として再興され、虚無僧の行脚が復活しました。このように虚無僧は、歴史の中でさまざまな変遷を遂げてきました。自宅で虚無僧に喜捨を求められた際には、「手の内ご無用」といった表現で断ることがあります。

時代劇における虚無僧の描写

虚無僧は江戸時代を著しく象徴する存在であり、市中や街道の通行人として描かれることが多いです。特に、深編笠で顔が隠れることから、暗殺者や隠密、あるいは武士の身分を隠して行動する際の象徴として描かれることもあります。尺八を吹きながら近づく虚無僧の姿が、敵に襲い掛かる瞬間を演出するシーンも一般的に見られます。彼らの独特な衣装と行動は、多くの物語において緊張感を生み出す要素となり、視聴者に強い印象を与えています。

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