虞 (春秋)

虞（ぐ）

虞は、中国の春秋時代に存在した諸侯国で、現在の山西省運城市平陸県一帯にあったと考えられています。国君は姫姓です。

起源

虞は、呉と密接な関係があったとされ、ともに周の古公亶父の子である太伯と虞仲の子孫とされています。『史記』によると、虞は呉の分国とされています。古公亶父には、長男の太伯、次男の虞仲、三男の季歴がいました。季歴の子である姫昌が生まれた際、様々な瑞兆があったため、古公亶父は「わが家を興すのは昌であろうか」と言ったとされます。父が季歴に跡を継がせようとしていると察した太伯と虞仲は、自ら出奔し、荊蛮の地へ赴きました。その後、二人は髪を切り、刺青を施し、中華に戻らない決意をしました。太伯は句呉を建国し、これが後の呉となります。太伯の死後、虞仲が跡を継ぎ、虞仲の曾孫である周章の代になった時、周の武王が殷を滅ぼして（武王克殷）王となりました。その際に、改めて周章を呉公に封じ、周章の弟である虞仲（太伯の弟とは別人）を、夏の都であった夏墟を領土として虞公に封じました。

しかし、歴史学者の楊寛は、『史記』の記述は誤りであり、太伯と虞仲が最初に建国したのは虞であり、呉がその分家ではないかと主張しています。また、歴史小説家の宮城谷昌光も、虞の爵位が最も高い公爵である一方、呉の爵位が最も低い子爵であることから、同様の説を紹介しています。これらの見解は、虞と呉の関係に対する異なる解釈を示唆しており、歴史研究における議論の対象となっています。

滅亡

虞の滅亡は、晋による侵攻によってもたらされました。晋の献公は、虢を討伐するために荀息を虞に遣わせ、名馬と宝玉を贈って道を通してもらい、虢を滅ぼしました。しかし、虢という後ろ盾を失った虞は、その後、晋に攻められ滅亡しました。この出来事は、魏晋南北朝時代の兵法書『兵法三十六計』の第二十四計「仮道伐虢」として知られています。これは、他国を利用して目的を達成する計略の例として、後世に伝えられることとなりました。

虞の興亡は、春秋時代の複雑な政治情勢と、各国間の駆け引きを示す典型的な事例の一つです。その歴史は、古代中国の国家間の関係や、戦略の重要性を理解する上で貴重な資料となっています。

虞の歴史は、周王朝の権威が衰退し、諸侯が台頭する春秋時代の動乱を象徴しており、古代中国の歴史を学ぶ上で重要な一例です。この国が滅亡に至る経緯は、国際関係や軍事戦略の観点からも、現代に通じる教訓を含んでいると言えるでしょう。

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