虫糞茶

概要

虫糞茶（ちゅうふんちゃ）は、別名、虫屎茶（ちゅうしちゃ）、虫茶（ちゅうちゃ）、龍珠茶（りゅうしゅちゃ）、茶精（ちゃせい）とも呼ばれる中国茶の一種です。このお茶は、コナシ、茶などの葉を食べる蛾の幼虫の糞を乾燥させたもので、使用する植物や蛾の種類によって様々なタイプが存在します。例えば、化香蛾茶（かこうがちゃ）や三葉虫茶（さんようちゅうちゃ）といった名前でも知られています。

主な生産地は中国の広西チワン族自治区桂林市竜勝各族自治県周辺と湖南省南部で、貴州省や四川省でも自家消費用に製造されています。元々はミャオ族が飲んでいた自家消費用のお茶でしたが、その香りの良さと特異性が知られるようになり、現在では化香蛾茶が東南アジアなどに少量輸出されています。しかし、化香蛾茶は販売用に作られたものであり、地元では本来飲まれていないという説もあります。

虫糞茶は濃い赤茶色で、糞特有の異臭はなく、香り高く、蜂蜜のような甘みを含んでいます。幼虫によって葉が分解されるため、必須アミノ酸、特にリジンを豊富に含み、うま味も増しています。さらに、善玉菌を多く含んでおり、健胃、整腸、止瀉、止血作用があると言われています。

歴史

虫糞茶の発見には、次のような伝承があります。清の乾隆年間（1736年 - 1795年）、湖南省城歩県で茶葉を保管していた小屋が雨漏りし、蛾が大量発生して茶葉がほとんど食べられてしまい、糞だけが残ったそうです。この糞を片付けようとしたところ、偶然水の中に落ちて、水が赤く変化するとともに茶葉の繊維が現れたことから、試しに湯に入れて飲んでみたところ、甘みと香りが良かったため、飲用されるようになったと言われています。

光緒年間（1875年 - 1908年）に著された『城歩郷土志』には、茶を籠に入れて数年間保管すると虫茶になるとの記載がありますが、発見の経緯については触れられていません。しかし、李時珍が清朝成立前の1578年に著した『本草綱目』に既に記載があるため、上記の伝承とは時代が合わないことがわかります。

種類

虫糞茶には、使用する植物と食べさせる蛾の種類によって数種類が存在します。

原料植物

現在、主に以下の植物が単独または組み合わせて使用されています。これらの植物から、重量比で約10％の製品が得られます。

トウチャ（Ampelopsis grossedentata）：別名、野藤、顕歯蛇葡萄。ブドウ科。
コナシ（Malus sieboldii）：別名、三葉海棠。バラ科。「三葉虫茶」の原料として、湖南省で主に利用されます。
ノグルミ（Platycarya strobilacea）：別名、化香樹。クルミ科。「化香蛾茶」の原料として、広西チワン族自治区で主に利用されます。

加工昆虫

葉を食べさせる昆虫としては、主にメイガ科シマメイガ亜科とヤガ科クルマアツバ亜科の蛾が用いられます。これらの蛾は、多くの種が枯葉や腐植、乾燥穀物などを食べて育つグループです。使用する植物によって集まる蛾が異なり、代表的な種としては以下のものがあります。

コメシマメイガ（Aglossa dimidiata）：メイガ科シマメイガ亜科。コナシなどを食べます。日本では貯穀害虫として知られています。
* ソトウスグロアツバ（Hydrillodes lentalis）：ヤガ科クルマアツバ亜科。ノグルミなどを食べます。日本では幼虫が枯葉を食べて育つことが確認されています。

製法

1. 穀雨の頃、蛾に食べさせる植物の葉を集め、水が抜ける笊や木桶に入れます。
2. 葉に米のとぎ汁をまぶして放置すると、発酵して臭いを発するようになり、その臭いに誘われてヒロオビウスグロアツバやコメシマメイガの成虫が集まり、産卵します。
3. 卵が孵化して幼虫になると、葉を食べながらゴマよりも小さい粒状の糞をするので、これを集めます。幼虫は数ヶ月間葉を食べ続け、糞をしますが、成虫になっても、葉がある限り置いておき、2年程度時間をかけることもあります。
4. 食べ残しの葉や茎などの異物を篩いにかけて取り除き、天日で乾燥させるか、鍋で炒るようにしてじっくりと乾燥させます。この糞の粒を「虫珠」または「龍珠」と呼びます。
5. さらに加工する場合は、鍋に虫珠を入れ、蜂蜜と粉砕した茶葉を5対1対1の割合で加え、茶葉と蜂蜜が表面をコーティングするように混ぜながら、約30分程度加熱乾燥させて完成です。

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