蟇沼用水

蟇沼用水

蟇沼用水（ひきぬまようすい）は、栃木県北部の那須野が原扇状地を流れる用水路です。那珂川水系の箒川支流である蛇尾川から取水し、那須塩原市を経て大田原市へと至ります。この用水路は、那須野が原における最も古い用水路として知られ、その歴史は江戸時代初期にまで遡ります。

概要

那須野が原は、約4万haという広大な面積を持つ日本有数の複合扇状地です。その中央を流れる蛇尾川は、扇状地の特徴として伏流し、普段は地下水となっており、大雨の時のみ地表を流れる水無川です。そのため、この地域は水利に乏しく、奥州街道より上流の土地は、かつては水不足に悩まされる不毛の地でした。

蟇沼用水は、蛇尾川が伏流する直前の、大蛇尾川と小蛇尾川の合流地点のすぐ下流にある蟇沼地区から取水しています。取水された水は、伏流する蛇尾川の右岸に沿って流れ、那須野が原扇状地を横断し、扇端部の大田原城下にまで到達します。明治時代中期までは飲料水として利用されていましたが、その後、拡張工事を経て、那須疏水や木ノ俣用水と共に那須野が原用水の一部として統合され、灌漑用水などにも利用されています。

歴史

江戸時代

開削当初の蟇沼用水は、接骨木堀（にわとこぼり）と呼ばれていました。正確な開削年は不明ですが、江戸時代初期の慶長年間（1596年 - 1615年）に蟇沼外の四か村によって開削されたという古文書が残っています。当初は、蟇沼、折戸、上横林、横林、接骨木の五か村（後の箒根村）で利用されていました。その後、1771年（明和8年）に大田原藩によって延長され、天明年間（1781年 - 1788年）には大田原城下まで到達し、大田原用水や御用堀とも呼ばれるようになりました。当時は水量が少なく、飲料水としての利用が主であり、生活排水の流入も禁止されていました。

那須野が原には、蟇沼用水の他にもいくつかの用水路が作られましたが、それらはごく一部の地域を潤すに留まりました。本格的な灌漑用水が整備されるのは、1885年（明治18年）に那須疏水が完成するまで待たなければなりませんでした。

近代

那須疏水の完成後、蟇沼用水は灌漑用水としても利用されるようになり、1891年（明治24年）頃から大規模な改修が重ねられました。洪水による取水口の破壊や水利権を巡るトラブルもありましたが、1900年（明治33年）には素掘りの岸壁を貫く新たな取水口が設けられました。この改修には、乃木希典も費用の一部を負担したとされ、乃木神社の境内には現在も蟇沼用水が流れています。その後も、1917年（大正6年）から1920年（大正9年）にかけて、水門の整備や取水口のコンクリート化といった改修が行われました。

現代

1967年（昭和42年）から1994年（平成6年）にかけて行われた国営那須野が原開拓建設事業では、那須疏水や木ノ俣用水と共に幹線水路の統合や水路のコンクリート化などの近代化整備が施されました。取水口も作り直されています。

蟇沼用水は、現在も那須野が原用水の一部として利用されており、小規模な水力発電施設（蟇沼第一・第二発電所）にも利用され、一般家庭約490軒分の電力を賄っています。1997年（平成9年）には、旧取水口が那須塩原市指定の文化財（史跡）に登録され、現在でも生活排水の流入が禁止されています。蟇沼用水と地域住民との結びつきは深く、近代化の際にも洗い場が設置されるなど、その遺産は大切に守られています。

脚注

蟇沼用水は、那須野が原の発展に欠かせない重要なインフラです。
地域住民の生活用水、農業用水、そして発電にも利用されており、多岐にわたる役割を担っています。
蟇沼用水は、那須野が原の歴史と文化を伝える貴重な遺産です。

参考文献

那須野ヶ原土地改良区連合の資料
那須塩原市の文化財に関する資料

関連項目

那須疏水
木ノ俣用水
那珂川
那須野が原
蛇尾川
箒根村

外部リンク

水土里ネット 那須野ヶ原 那須野ヶ原土地改良区連合

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