血のメーデー事件 (ドイツ)

血のメーデー事件

血のメーデー事件は、1929年5月1日にドイツ・ベルリンで発生した、ドイツ共産党(KPD)と警察との衝突事件です。この事件は、ワイマル共和政下の政治的緊張と社会不安を象徴するものとして知られています。

事件の背景

1920年代後半、ドイツ国内では共産党の赤色戦線戦士同盟、社会民主党(SPD)の国旗団、国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP)の突撃隊といった各党の準軍事組織間の衝突が頻発していました。特にメーデーなどの政治的なイベントでは、各組織が勢力を誇示しようとし、衝突の危険性が高まっていました。

当時の政権は、ヘルマン・ミュラー社民党政権であり、内務大臣はカール・ゼーフェリンクでした。プロイセン州政府もまた、オットー・ブラウン社民党政権であり、ベルリン警察長官はカール・ツェルギーベルでした。彼らは、事態を憂慮し、1929年3月以降デモ行進を禁止しました。そして、伝統的なメーデーの行進も禁止しました。

事件の発生

共産党は、このメーデー行進の禁止命令に強く反発しました。彼らは、メーデーは労働者の権利を訴える重要な機会であると主張し、禁止命令を無視して1929年5月1日に違法デモを強行しました。

これに対し、ベルリン警察長官ツェルギーベルは、警察部隊にゴム製の警棒や火器の使用を指示し、デモ参加者を強制的に排除しようとしました。これにより、共産党員と警察との間で激しい衝突が発生しました。共産党員たちは、ベルリンの労働者街であるヴェディング地区やノイケルン地区でバリケードを築いて抵抗しましたが、警察の圧倒的な武力によって鎮圧されました。警察側の被害はほとんどありませんでしたが、共産党員側には多数の死傷者が出ました。

事件の結果と影響

最終的に、この事件で31名が死亡、数百人が負傷、1200人が逮捕されるという惨事となりました。この事件を巡り、責任の所在をめぐる激しい非難合戦が繰り広げられました。また、赤色戦線戦士同盟が非合法化されたことも、社共間の対立を一層激化させる要因となりました。

事件後、共産党は社会民主党を主要な敵とみなす「社会ファシズム論」をさらに強化しました。これは、その後のドイツにおける政治的対立を深刻化させ、ナチスの台頭を許す一因になったとも言われています。

血のメーデー事件は、ワイマル共和政の不安定さを示す出来事として、歴史に深く刻まれています。

参考文献

阿部良男『ヒトラー全記録 20645日の軌跡』柏書房、2001年。ISBN 978-4760120581。
フレヒトハイム, O.K.、ウェーバー, H 著、高田爾郎 訳『ワイマル共和国期のドイツ共産党 追補新版』ぺりかん社、1980年。
成瀬治、山田欣吾、木村靖二『ドイツ史〈3〉1890年~現在』山川出版社〈世界歴史大系〉、1997年。ISBN 978-4634461406。
モムゼン, ハンス 著、関口宏道 訳『ヴァイマール共和国史―民主主義の崩壊とナチスの台頭』水声社、2001年。ISBN 978-4891764494。

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