衛星インターネットアクセス

衛星インターネットアクセスは、人工衛星を利用してインターネットに接続する技術です。2020年現在、最大500Mbpsの高速通信が世界中で利用可能になっています。また、低軌道に多数の衛星を配置するコンステレーションにより、低遅延なインターネットアクセスが実現しようとしています。

歴史

初の人工衛星スプートニク1号が1957年に打ち上げられ、翌年にはアメリカのエクスプローラー1号が続きました。1962年には、世界初の通信衛星テルスター1号が打ち上げられ、1963年には静止軌道に到達したシンコム3号が誕生しました。SF作家アーサー・C・クラークは1945年に静止衛星のアイデアを提唱しており、このアイデアは後の衛星通信の発展に大きな影響を与えました。

インターネットの普及に伴い、静止衛星はインターネットサービスの代替手段として注目されるようになり、Kaバンドが利用されるようになりました。1993年、ヒューズ・エアクラフトはKaバンドを使用する最初の衛星スペースウェイの打ち上げ許可を得ました。1995年には、エコースター、ロッキード・マーティン、モトローラなど15社が同様の許可を得ましたが、テレデシックのような野心的な計画は実現しませんでした。テレデシックは、マイクロソフトからの出資を含め、90億ドル規模の計画でしたが、2003年に中止されました。

日本では1999年、NTTサテライトコミュニケーションズが「MegaWave」という名称で衛星インターネットの試験サービスを開始しましたが、採算性の問題から2000年に終了しました。民生用としては、2003年にユーテルサットが双方向通信に対応した最初の衛星を打ち上げました。その後、ワイルド・ブルーやヒューズ・ネットといった企業がサービスを開始しましたが、これらの企業は後にバイアサットとエコースターに事業を引き継ぎました。2010年代には、バイアサットやヒューズ・ネットの新しい衛星により、衛星インターネットの速度は大幅に向上しました。

2014年以降、SpaceX、OneWeb、Amazonなどの企業が低軌道衛星コンステレーションを使ったインターネットアクセスに参入し、それぞれが1000機以上の衛星を打ち上げる計画を立てています。これにより、衛星インターネットは新たな時代を迎えようとしています。

挑戦と限界

シグナルのレイテンシ

レイテンシとは、データの要求から応答までの時間であり、衛星通信においては信号が地球と衛星の間を往復する時間が大きな影響を与えます。

静止衛星のレイテンシ

静止衛星は高度約36,000kmの軌道上にあるため、電波が往復するだけで約250ミリ秒の遅延が発生します。この遅延は他の遅延要因を考慮すると、ユーザーからISPまでの片道で500〜700ミリ秒、往復では1000〜1400ミリ秒にもなります。これは、光ファイバーなどの高速インターネット接続と比較して非常に長い遅延であり、オンラインゲームなどリアルタイム性の高いアプリケーションには不向きです。TCPアクセラレーションなどの技術でこの遅延を多少緩和することは可能ですが、根本的な解決には至っていません。

低軌道衛星のレイテンシ

一方、低軌道や中軌道の衛星は、静止衛星に比べて遅延を大幅に短縮できます。例えば、グローバルスターやイリジウムなどの低軌道衛星は40ミリ秒以下の遅延を実現していますが、通信速度はブロードバンド以下です。O3bネットワークのような中軌道衛星は、125ミリ秒程度の遅延で、高いスループットを目指しています。低軌道衛星の課題は、常に空の同じ位置にいるわけではないため、地上のアンテナが特定の衛星を追跡する必要がある点です。

超軽量航空機の衛星としての利用

静止衛星の代替案として、超軽量航空機を衛星として利用する計画も提案されています。例えば、アメリカ国防高等研究計画局のハゲワシ計画では、太陽電池式の超軽量航空機を高度2万メートルで飛行させ、地上のアンテナと通信することでレイテンシを0.25ミリ秒まで短縮することに成功しました。

雨による減衰

衛星通信は、雨や雪などの影響を受けやすく、特にKu帯やKa帯のような高周波数帯では顕著です。この現象は「レインフェード」と呼ばれます。熱帯地域では、C帯などの低周波数帯が使用されることが多いです。雨の影響を軽減するために、レインマージンや適応アップリンク電力制御、ビットレートの削減などの技術が用いられます。また、アンテナのサイズを大きくすることも有効です。DVB-S2規格では、天候に応じて変調方式を切り替えることで、全体のコストを下げながら、晴天時のビットレートを向上させています。

見通し線とフレネル帯

衛星通信には、アンテナと衛星の間が完全に遮蔽物のない状態であることが必要です。樹木などの障害物があると信号が減衰します。また、信号の伝播経路であるフレネル帯も障害物がない必要があります。

衛星の打ち上げ

近年、衛星の打ち上げが活発化しており、バイアサット1号やエコースターXVII衛星など、高性能な通信衛星が続々と打ち上げられています。日本の「きずな」衛星は、ブロードバンドインターネットサービスを提供するための実験が行われました。また、SpaceX社のスターリンク計画では、一度に60基もの衛星を打ち上げるなど、衛星打ち上げの規模が拡大しています。

まとめ

衛星インターネットアクセスは、地理的な制約を受けずにインターネット接続を提供できるため、都市部だけでなく山間部や離島などでも重要な役割を果たします。技術的な課題も多く残されていますが、低軌道衛星コンステレーションの登場により、高速・低遅延なインターネット接続が実現する可能性が高まっています。

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