衣川の戦い

衣川の戦い（ころもがわのたたかい）

衣川の戦いは、文治5年閏4月30日（1189年6月15日）に、陸奥国衣川館（現在の岩手県平泉町）で起きた、藤原泰衡率いる奥州藤原氏勢力と、源義経主従との間の悲劇的な戦いです。

背景

源平合戦後、源頼朝は勢力を拡大し、奥州にもその影響を及ぼそうとしていました。奥州藤原氏三代当主・藤原秀衡は、頼朝に対抗するため、平家滅亡の功労者でありながら頼朝に追われていた源義経を庇護し、大将軍として迎え入れました。しかし、文治3年（1187年）に秀衡が病没すると、状況は一変します。

頼朝は、秀衡の後を継いだ藤原泰衡に対し、朝廷を通じて義経の捕縛を強く要求しました。一方、義経は再起を図り、文治4年（1188年）には出羽国で鎌倉方の僧兵・昌尊を破り、『玉葉』にその記述が残されています。また、文治5年（1189年）1月には、義経が京都に戻る意思を示す手紙を持った比叡山の僧が捕らえられるなど、活動を活発化させていました。

戦いの経緯

泰衡は、鎌倉からの度重なる圧力に屈し、父・秀衡の「義経の指図を仰げ」という遺言を破り、ついに義経討伐を決意します。閏4月30日、泰衡は500騎の兵をもって、藤原基成の衣川館にいた義経主従を急襲しました。

義経方は、郎党の武蔵坊弁慶、鈴木重家、亀井重清、備前平四郎らがわずか十数騎で防戦しましたが、多勢に無勢であり、全員が討ち死に、または自害しました。館を平泉の兵に包囲された義経は、抵抗を諦め、持仏堂に篭ると、まず正妻の郷御前と4歳の娘を殺害し、その後、館に火を放って自害しました。享年31歳（満30歳没）でした。

弁慶の立ち往生

伝承や『義経記』などの物語によれば、弁慶は義経を守るため、全身に矢を受けながらも仁王立ちのまま絶命したと伝えられています。この逸話は「弁慶の立ち往生」として広く知られ、弁慶の忠義と勇敢さを象徴するものとなっています。

影響

義経を討った泰衡でしたが、その行為は頼朝の更なる侵攻を招き、同年中に奥州藤原氏は滅亡しました。衣川の戦いは、奥州藤原氏の滅亡の引き金となり、鎌倉幕府による全国統一への道を開く出来事となりました。

参考文献

五味文彦『源義経』 岩波新書、2004年。
佐藤謙三訳『義経記』（全2巻） 平凡社東洋文庫、初版1979年　のちワイド版。

関連項目

吾妻鏡
源平盛衰記

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