衣浦臨海鉄道

愛知県半田市に本社を置く衣浦臨海鉄道株式会社（きぬうらりんかいてつどう）は、主に愛知県の衣浦湾沿岸地域において貨物輸送を専門に行っている鉄道事業者です。この会社は、旧日本国有鉄道（国鉄）、愛知県、半田市、碧南市、高浜市といった地方自治体、そして川崎製鉄（現在のJFEスチール）などの企業が出資して設立された第三セクター鉄道の一つです。

設立の背景には、1960年代の高度経済成長期に推進された衣浦湾岸の工業地帯開発計画がありました。この一大プロジェクトの進展に伴い、膨大な量の原材料や製品を効率的に輸送するための鉄道ネットワークが必要とされ、1971年（昭和46年）4月8日に衣浦臨海鉄道が設立されました。その後、路線の建設が進められ、1975年（昭和50年）11月15日には半田線が、次いで1977年（昭和52年）5月25日には碧南線が開業し、衣浦湾を取り巻く産業地域に鉄の道が開かれました。

当初、衣浦臨海鉄道は沿岸の工場へ各種資材や完成品を運び、さらには地元で伝統的に生産されてきた製品の輸送を担うことを目的としていました。しかし、設立当初は計画していたほどの貨物量が得られず、社会情勢や産業構造の変化も相まって、かつて扱っていた肥料、穀物、そして地域特有の窯業製品である三州瓦などの鉄道輸送が終了してしまいました。厳しい経営状況が続き、一時は存続が危ぶまれる事態も囁かれました。

しかし、会社にとって大きな転換期が訪れます。碧南市に石炭を燃料とする大規模な火力発電所（現在のJERA碧南火力発電所）が建設・稼働したことにより、新たな主要輸送品目が生まれました。現在、衣浦臨海鉄道の貨物輸送の中心となっているのは、この発電所の運転に伴って発生する石炭灰（フライアッシュ）です。石炭灰はセメントや建築材料の重要な原料として広く利用されており、安定的な鉄道輸送が求められています。また、発電所の排煙脱硫プロセスで使用される炭酸カルシウムなどの化学品も、鉄道貨物として輸送されています。これらの重量物輸送が、現在の衣浦臨海鉄道の経営を支える大黒柱となっています。

主力である発電関連輸送に加え、沿線に集積する様々な工業地帯のニーズに応じた原材料や製品の輸送も継続しています。特に、多様な貨物を効率的に扱えるコンテナ輸送を積極的に導入し、地域産業の物流を多角的にサポートしています。

衣浦臨海鉄道の歴史における主な出来事としては、2004年（平成16年）12月1日に子会社であった衣浦臨海通運を吸収合併し、事業体制の効率化を図ったことが挙げられます。また、路線の変遷としては、2006年（平成18年）4月1日に碧南線の一部区間、具体的には碧南市駅から権現崎駅の間が廃止されています。

現在運用されている路線は、半田線と碧南線の二つです。

会社の輸送を担う車両は、主にディーゼル機関車です。

KE65形ディーゼル機関車: 1975年の開業に合わせて導入された、国鉄のDE10形ディーゼル機関車に準じた設計の機関車です。現在、KE65 1号機から3号機、そして5号機の合計4両が在籍しています。これらの機関車は開業以来、長年にわたり主力の牽引機として活躍しており、一時期は樽見鉄道へ譲渡された車両もありましたが、後に別の車両を導入して現在の体制が維持されています。
KD58形ディーゼル機関車: 比較的新しい車両として、2024年に導入されました。JR貨物が導入を進めているDD200形ディーゼル機関車と基本構造を同じくする最新鋭機です。川崎車両で製造されたKD58 1号機が同年11月に搬入され、各種試験や習熟運転を経て、2025年3月15日から営業運転を開始しました。今後の主力機となることが期待されています。

過去には、DD35形ディーゼル機関車（DD35 1）も在籍していました。この機関車は元々常磐共同火力の所有で、仙台臨海鉄道を経て1984年に衣浦臨海鉄道に譲渡され、1985年から短期間運用されましたが、主に半田線半田埠頭駅での入換作業に使用された後、1991年に解体されています。

このように、衣浦臨海鉄道は設立以来、時代の変化とともに輸送品目を変化させながらも、地域の重要な物流インフラとして、特にエネルギー関連や建設資材の輸送を担い、衣浦湾岸地域の産業を支え続けています。

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