袞衣

袞衣（こんえ、こんい）とは

袞衣は、天皇が着用する格式高い礼服であり、「袞龍御衣（こんりょうのぎょい）」とも呼ばれます。龍の刺繍が施されているのが特徴で、中国の皇帝が着用した袞服（こんぷく）に相当します。日本では、天皇が即位式や朝賀などの重要な儀式において、冕冠（べんかん）とともに着用しました。

概要

袞衣は、大袖、小袖、裳（も）で構成されています。大袖と裳には、それぞれ龍を含む十二章（じゅうにしょう）と呼ばれる12種類の文様が刺繍されています。これらの文様は、天子の徳を表すとされ、袞衣の格式を高めています。

袞衣は、孝明天皇の即位の礼まで使用されましたが、明治天皇以降は黄櫨染御袍（こうろぜんのごほう）が即位の礼に用いられるようになりました。

歴史

奈良時代

『続日本紀』によると、天皇が冕冠と袞衣を初めて着用したのは、天平4年（732年）のこととされています。しかし、この時に着用された袞衣は、十二章を配したものではありませんでした。

正倉院には、聖武天皇（太上天皇）と光明皇后（皇太后）の礼冠の残欠が伝わっています。これらの礼服は、東大寺大仏の開眼会で使用されたと考えられています。しかし、現存する礼服はなく、当時の記録から、聖武天皇は白絹の袍を着用していたと考えられています。

平安時代

袞衣が正式に天皇の礼服として規定されたのは、弘仁11年（820年）の嵯峨天皇の詔によるものでした。この詔において、天皇は神事には「帛衣（はくぎぬ）」、朝賀には「袞冕十二章」、諸行事では「黄櫨染衣（こうろぜんのきぬ）」を着用することが定められました。

『土右記』には、後朱雀天皇の即位礼の前に、袞冕十二章を点検する儀式が行われたことが記されています。この記録から、当時の袞衣は緋色の綾で作られた大袖であり、日、月、山、火焔、鳥、龍、虎、猿を表す8つの文様が刺繍されていたことがわかります。

鎌倉時代以降

鎌倉時代には、後深草上皇が伏見天皇の即位に先立ち、礼服を検分した記録が残っています。また、南北朝時代には、光明天皇の即位礼に際して、装束が新調されました。

室町時代には、応仁の乱を避けて天皇の礼服が比叡山に疎開されました。しかし、後柏原天皇の即位礼は、戦乱の影響で20年以上も延期されることとなりました。

江戸時代には、後水尾天皇の即位礼において、装束が新調されました。また、明正天皇は女性天皇であったため、白一色の十二単の礼服が新調されました。

中国の袞服との違い

日本の袞衣は、中国の袞服とはいくつかの点で異なっています。最も大きな違いは色です。中国の袞服は、黒色の上衣に赤色の裳を用いるのに対し、日本の袞衣は上下とも赤色です。

また、日本の冕冠には、中国には見られない日形の飾りがついています。これに関連して、天皇が太陽と特別な関係を持つことを象徴するため、袞衣も太陽を象徴する赤色が選ばれたのではないかという説もあります。

構成

袞衣を含む、天皇の礼服一式の構成は以下の通りです。

冕冠（べんかん）：天皇専用の冠
大袖（おおそで）：赤色の表衣
小袖（こそで）：赤色の内衣
裳（も）：赤色の巻スカート
袴（はかま）：白色の袴
笏（しゃく）：象牙製の笏
綬（じゅ）：白色の帯
玉佩（ぎょくはい）：腰につける玉飾り
襪（しとうず）：錦製の靴下
舄（せきのくつ）：革製の靴

まとめ

袞衣は、天皇が着用する格式高い礼服であり、その歴史は奈良時代にまで遡ります。中国の袞服に由来するものの、日本独自の形式が取り入れられています。袞衣は、天皇の権威を示す象徴として、重要な役割を果たしてきました。

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